8.奪還計画
十分泣いてすっきりした上に、母親に活を入れられたことで、都の気持ちは幾分回復した。
だが、和人を取り戻すにしても、具体的に何をすればいいのだろう?
都は部屋の机で首を捻った。
「とにかく、振られた理由をちゃんと教えてもらわなきゃ!」
そうしないと、対策も立てられない。
帰宅の道のりで考えた四つの可能性—――
1.和人を怒らせたかもしれない。
2.都が好みの女に成長していない。
3.他に好きな子ができた。
4.元から都が嫌いだった。
都はこれらをメモ用紙に書き出してみた。
今のところ、これしか思い浮かばないが、このどれかを和人に教えてもらわなければ、これから戦えない。
文字に起こしてみて、改めて読む「四番目」にはゾゾっと身震いした。
これが理由だったら、即、ジ・エンドだ。
都はブルブルと頭を振った。
「もし、これが答えだったら、都、死んじゃうんだからいいとして、他の三つの理由だった場合の対策をしっかり考えなきゃ!」
都は引き出しからあるものを取り出した。
それは鉢巻。
中学生の時に行った修学旅行先で買った静香とのお揃いの鉢巻だ。
『闘魂』
日の丸を挟んでそう書かれた鉢巻を頭にギュッと巻くと、真新しいノートを引っ張り出し、表紙に太いマジックでキュッキュッっと何かを書き込んだ。
『和人君奪還計画』
そう書いたノートを両手に掲げて気合を入れた時、バタバタと階段を駆け上がる音が聞こえたと思ったら、バンっと乱暴に都の部屋のドアが開けられた。
「みやこぉ~!」
「パパ!」
部屋に入ってきたのは都の父だった。
父は入って来るや否や、都の両肩をガシッと掴み、都と向き合った。
「都! 都ちゃん! 一体これはどういう事なんだ? 和人君が都の許嫁を辞めたいだなんて言ってきたぞ!」
なんと! 和人はもう父に話してしまったのか? 行動が早すぎる!
なにも今日言わなくったていいのに!
目を丸めている都に父は、
「なあ、都ちゃん! 和人君と喧嘩したのか? あんなに仲が良かったじゃないか!ちょっとした喧嘩で別れるなんて、そんなのは馬鹿げているぞ、ね?」
「喧嘩なんてしてないもん・・・」
「じゃあ、どうしてだい?」
「分かんない・・・」
「和人君を怒らせるようなことをしたのかい?」
「分かんない・・・」
「あんな温和な和人君が、許嫁を辞めたいなんて言うほどの何かをしでかしちゃったのかい?」
「だから分かんないんだってば!」
都はしつこい父親に腹が立ち、手を振り払った。
ただでさえ傷ついているのに、ズケズケとまったくデリカシーの無い!
「パパったら、ちょっと・・・」
心配で追いかけてきた母親がそっと父親の腕を引いた。
父は、振り返って母を見たが、すぐに都に向き直ると、
「いいかい、都ちゃん。和人君に悪いことしたと思っているなら、ちゃんと謝って許してもらいなさい。仲直りするんだよ」
この父母は、愛情は都の方が上でも、信頼は圧倒的に和人に置いているようだ。
今回の件も、非は都にあると決めつけている。
当の都本人もそう思っているが、やはり、頭ごなしに決めつけられるのは理不尽だ。
「和人君ほど都ちゃんに似合う男の子はいないと、パパは思っているんだから」
「そんなこと、都だって分かってるもん!」
都は父の言葉を遮って睨みつけた。
「都、諦めないから! パパはもう黙ってて!」
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