7.諦めてはいけない!

結局、打開策は浮かばなかったが、話を聞いてもらえたことで都の気持ちは少しだけ落ち着いた。

恭介と里香に家まで送り届けてもらい、重い足取りで、リビングで待つ母親のもとに行った。


「お帰りなさい、都ちゃん。遅かったわね。もしかして和人君と図書室でお勉強していたの?」


都の母は、一人優雅にお茶をすすりながら、にっこりと愛娘を迎えた。

だが、都のこの世の終わりのような顔に、ギョッとして立ち上がった。


「ママ・・・」


「まあ! どうしたの!? 都ちゃん!」


母親は都のもとに駆け寄ると、両手で頬を包み、顔を覗き込んだ。


「う・・・、ママ・・・」


都はまた涙が溢れだした。

そして母親に抱きつくと、その胸に顔を埋めて大声で泣き出した。

その後は、先ほどの陸橋での恭介とのやり取りの繰り返し。


「ママ! 都、和人君にフラれちゃった~! どうしよう~! 和人君、大好きなのに~!」


「ええ~~~!?」


「和人君がいない世界なんて生きていられない~~!」


「そ、そんな! 和人君に振られるなんて! 都ちゃん、何かの間違いよ! だって、和人君とあんなに仲が良かったじゃない!」


「でも、許嫁辞めたいって言われた~~~!」


「ええ~~~!?」


これは一大事だ! 大変だ!

愛娘が振られてしまうなんて!

都がどれだけ和人にべた惚れかは、十分知っている。

・・・だが、どれだけ我儘かも知っている。


もしかして、あんなに優しい和人でも、都の我儘に愛想を尽かしたのか?


「そ、そんな・・・」


母親はオロオロしながらも、都を優しく抱きしめ、髪を撫でた。


「パパに・・・、パパに、相談しましょう・・・。あ、いや、黙ってた方がいいかしら・・・?」


愛娘を溺愛している父親がこれを知ったらどうなるのか。卒倒してしまうのではないか?

自分ですらこんなに動揺しているのに!


「・・・和人君からパパとママにちゃんと話すって言われた・・・」


「・・・!」


母親は額に手の甲を当てると、ふぅ~と息を吐き、フラ~と揺らいだ。


「え・・・? ちょっと、ママ!」


父親よりも先に母が卒倒してしまった。





お手伝いさんに用意してもらった氷嚢で額を冷やしながらソファに横になった母親は、傍に跪いて、心配そうに自分の顔を覗き込んでいる愛娘の頭をそっと撫でた。


「都ちゃん・・・。和人君に、何で振られちゃったか分かっているの?」


都は俯いて首を横に振った。


「ああ・・・。いい子にしていなきゃ、いつか和人君に嫌われちゃうわよって、ママはいつも言っていたじゃないの・・・」


都がくだらない我儘を言うたび、勉強をさぼろうとするたび、いつも和人を出汁にして説教をしていた。


『あんまり我儘お嬢さんだと、和人君に嫌われちゃうわよ』

『お勉強もできないお嬢さんだと、和人君に呆れられちゃうわよ』


和人にベタ惚れな都には、このフレーズは効果覿面、お呪いのように良く効いた。


だが、もちろん本気のつもりは無い。

我が娘ながら、お人形さんのように可愛いし、てっきり和人も都にベタ惚れと思っていたのだ。

それなのに、その言葉が本当になってしまうとは・・・。


「都ちゃん、あなたはこれでいいの?」


母親は都の手を取った。

都は顔を上げて母親を見た。


「このまま引き下がるの? このまま和人君と別れちゃっていいの?」


都は首を横に振った。


「そうよ! そうよね!? 和人君のこと大好きだものね?!」


都は首をブンブンと縦に振った。


「そうよ! 諦めちゃ駄目よ! ママも応援するわ! 頑張りましょう!」


母親は起き上がると、両手でしっかり都の手を握った。

氷嚢が床に落ちたが、そんなことは気にせずに、都を見つめた。


「和人君を取り戻すのよ!」

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