5.冴えない男

「恭ちゃん・・・」


「え? 泣いてるの? お前・・・」


「うぅ・・・、恭ちゃ~ん!」


都は従兄に抱きついた。


「おい! ちょっと、どうした? ってか、ちょっと、困るんだけど!」


狼狽する恭介などお構いなしに、都はさらにぎゅうっと恭介に抱きついた。


「・・・これってどういうこと? 恭介君・・・」


恭介の隣にいた女性が、冷ややかに恭介と都を見た。


「いや、こいつ、俺の従妹! 妹みたいな奴で! な? な、そうだよな? 都!」


恭介は必死に都を自分から剥がそうとするも、都は剥がれない。


「へえ、そう・・・。可愛い子ね・・・」


女性の低い声に、恭介はさらに焦る。

何とか都を離そうとした時、都が顔を上げた。


「都、和人君にフラれちゃった~~! どうしよう~! 和人君、大好きなのに~!」


そう言って、また恭介の胸に顔を埋めた。


「な? な? ほら、俺、関係ないだろ?」


恭介は必死に自分の恋人に訴えかけた。

それから、都に向かって、


「んなわけないだろ? 勘違いだよ。和人がお前を振るわけないじゃん」


そうなだめながら、なんとか自分から無理やりべりべりっと引き剝がした。

無理やり離された都は、


「和人君がいない世界なんて、生きていられな~い! もう、都、ここから飛び降りて死ぬ~!」


そう叫び、ビーっと子供のように泣き出した。


「ちょっと、里香、ごめん! 代わって! 俺、もう無理。対応不可能!」


恭介は隣にいる自分の恋人に助けを求めた。

里香と呼ばれた女性は、目の前のJKに驚いて声も出ない。

だが、もう一度、恭介に懇願されて、我に返った。


「と、とにかく、落ち着こう! ね?」


そう言って、都の肩を優しく抱いた。


「ね、コーヒーでも飲んで落ち着こう! 甘いやつ! お姉さんが奢ってあげる。ね?」


「うう・・・。都の話、聞いてくれる・・・?」


「うん! うん! 聞いてあげる! だから、スタ●にでも行こう」


里香は優しく都の手を引いて歩き出した。

恭介は自分の袖で額の汗を拭きながら、二人の後を付いて行った。





コーヒーショップでクリームいっぱいのカフェを飲ませると、都は少し落ち着いた。


「大丈夫? 少しは落ち着いた?」


里香は優しく都に尋ねた。

都はコクンと頷いた。


落ち着いたとはいえ、相変わらず目を真っ赤にして俯いている。

そんな目の前いる女子高生は読モ並みに可愛い女の子だ。


「こんなに可愛い子なのに・・・。きっと何かの間違いよ」


里香は隣に座っている都の髪を優しく撫でた。


「・・・でも、和人君に・・・、許嫁、辞めたいって・・・、言われちゃった・・・」


都の可愛い目から再び涙が浮かび上がると、ポロっと零れ落ちた。


「許嫁?」


里香は都の涙より、その言葉に驚いた。


「許嫁? 今どき?」


思わず、前に座っている恋人の恭介を見た。

恭介は椅子の背に片腕を掛けて足を組み、スマホをいじっている。


「おいっ!」


里香はテーブルの下から足で恭介の椅子を蹴っ飛ばした。


「おっと! そうそう、許嫁なんだよ、その和人って奴。な?」


恭介は慌ててスマホから顔を上げて、都と里香を見た。


「俺もよく知ってるんだよ、ガキの頃から。しょっちゅう都の家に居たし。冴えない奴だけど、まあ、いい奴だな」


「冴えなくないもん!!」


都は恭介を睨みつけた。


「ちょっと恭介君!」


里香は慌てて間に入ると、都の肩を抱いて宥めた。


「そうよねぇ! 都ちゃんが好きになる人だもんね! 格好良いんでしょ?!」


里香はおだてるように言うと、都はちょっと嬉しそうに里香を見た。

フフッと可愛らしく笑うと、


「写真見る? 和人君の」


そう言って、ちょっと自慢気にスマホの画面を里香に見せた。

里香はその写真を見て固まった。


「・・・えっと・・・」


何と言っていいのか分からず、思わず言葉に詰まった。

恭介は平然とした顔でアイスコーヒーをズズ―っと飲んで、里香を見た。


「な? 冴えないだろ?」

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