第8話 知る者、知らない者

樹さんへの自分の気持ちに気がついてから何度か、陽人と一緒に音楽仲間のライブに行くことがあった。


樹さんがライブを見に行くかどうかは本人に聞いていないので、私たちが来た後に樹さんが来るのではないかと、毎回ドキドキしていた。


そして、樹さんが来ると私は内心とても嬉しかった。「(また会えた…!)」と。



樹さんのことが好き、というこの気持ちは私だけが知っているもので、当然樹さんにも陽人にも誰にも話していないので誰も知らない。

樹さんの顔を見るとドキドキしていたり、話しかけたりすることすらもできないのは私だけ。


樹さんはそんな私の気持ちはいざ知らずに、私と陽人がいるテーブルに話しかけにくる。

陽人と樹さんが楽しそうに話をしている隣で、私は頷いたり相槌を打ったりするだけで精一杯だった。樹さんの顔を見ることすらできなかった。


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