第6話 話す
それぞれの注文を受け取って席に戻ってきた後、私はどういうふうに話を切り出したらいいか分からずに悩んでいたところで、樹さんが話を切り出してくれた。
「紅茶を良く飲むの?」
「あ、はい。 コーヒーか紅茶かと言われたら、どちらかと言うと紅茶の方が好きなんです。」
私はガムシロップのポーションを開けて、アイスティーと混ぜながら答えた。
「樹さんは、どちらかと言うとコーヒーをよく飲まれるんですか?」
「そうだね、紅茶も好きだけど、コーヒーを飲むことの方が多いかな。」
「そうなんですね〜。」
「そういえば、香菜ちゃんが今日僕と2人で会うことは、陽人くんには話しているの?」
「いえ、話していません。 もし話したら、一緒に会うと言って聞かないと思ったので。」
と私は笑いながら答えた。
「そうなんだ(笑) なんだか陽人くんに悪いことしちゃったね。」
「いえ、大丈夫だと思います。 それに、陽人が一緒に居たら、私が樹さん話したいと思っていることが話せないと思うので(笑)」
「そっか、それなら仕方ない…かな?(笑) …それで、僕に話したいことってなに?」
「えっとですね…」
樹さんに会う前から私は、樹さんに話したいこと、聞きたいことを頭の中でリストアップしていた。
だが、そんな準備は全く意味を成さなかった。
自分の中で勝手に憧れを抱いていた樹さんが今目の前にいて、私と話をしてくれている。そう思うとドキドキして、言葉が出ても声が小さくなってしまう。
「(ああ、まただ…。こんなんじゃ樹さんに迷惑をかけてしまう…。)」
「じゃあ今度は、僕が香菜ちゃんに質問するね。 いい?」
私が緊張して上手く話せないことを、全く気にしていないかのように、樹さんは話しかけてくれる。
樹さんに申し訳ないと思うとともに、その優しさに感謝もしていた。
樹さんのおかげで、次第に私の緊張がほぐれていき、私が樹さんに聞きたいことを聞けるほどになっていた。
その話の流れで、樹さんが私に質問をしてくることもあった。
そんなこんなで、樹さんと3時間くらい話していた。
いつの間にか、樹さんと初めて2人で会ったとは思えないくらい打ち解けていた。
そして帰る頃になり、私は樹さんを池袋駅のJRの改札口まで送った。
「それじゃあ、私はここで失礼しますね。」
「あれっ、電車に乗って帰るんじゃないの?」
「いえ、私は別の路線なので。」
「そうなんだ。気が付かずにごめんね。送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね!」
「樹さんもお気をつけて!」
別の路線というのは本当だが、私が樹さんを改札口まで送ったのにはちゃんと理由があった。
できるだけ樹さんと一緒に居たかったから。
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