第3話 繋がり

樹さんから「ありがとう。」の言葉と優しい笑顔をもらったあの日から、私は樹さんのことを思い浮かべることが多くなった。


ライブ会場のレストランで会ったあの日に、これも何かの縁だから、と陽人の勧めもあって私は樹さんとお互いのSNSのアカウントをフォローし合った。


それぞれのSNSの投稿に「いいね」をしたりコメントをしたりして、何事もなく平穏に日々が過ぎて年が明けた。


…何事も起こらない、と思っていた。


私は次第に、樹さんの投稿を見るたびに

「楽しそうだなあ。」

「どんな服装で出かけているんだろう?」

「付き合ってる人がいる、という話はこの前聞かなかったけど、実際どうなんだろう?」

など、プライベートなことにまで気になるようになっていた。


「樹さんの、そんなプライベートなことを気にしたって意味ないじゃない。」と自分に言い聞かせて、意識的に気にしないようにしていたが、その意識に反動してか、ますます樹さんのことを思い浮かべるようになっていた。



そして3月のある木曜日の夜に、とうとう樹さんにSNSのDMを送った。そんな行動に移った自分に、自分でも驚いている。


「いきなりのDMすみません。

 この前着ていたような、お洒落な洋服はどこで買われているんですか?」

という文を送った。


DMを送ってからというもの、私は返信が気になって仕方がなかった。

そもそも返信をくれるのか、もし返信をくれたらどういう言葉が返ってくるのか、そんなことばかりを気にしていた。


樹さんからに返信は、私が思っていたより早く、次の日の夜に返信をしてくれた。


樹さんからの返信は優しかった。

「まさか香菜ちゃんからDMが来るなんて思わなかったからびっくりしたよ!

 でも送ってくれてありがとう。」

という書き出しを見て、私はほっと胸をなでおろした。



それからというもの樹さんとはDMで、洋服の話や好きな食べ物の話、お酒の話などいろんな話をした。

樹さんの返信は早いものではなかったが、平日は仕事をしていて忙しい身だということを知っているので、そんなことは気にならなかった。

むしろ、私に返信をしてくれること自体ありがたいことだし、返信のペースがゆっくりの方が、長い期間話していられるような気がして嬉しかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る