第2話 興味

樹さんと陽人は、久しぶりの再会で会話が弾んでいた。人と会話をすることが少し苦手な私は会話に入ることができずに、陽人の隣の、テーブルの角の席で小さくなりながら細々と食事をしていた。


会話が途切れたある時、樹さんが陽人に「そちらの方は?」と尋ねた。不意打ちを受けた私は、人と話す時の気持ちを準備する暇もなかったので、驚いた表情のまま顔を上げた。


「紹介していなくてすみません。こちらは僕の彼女の香菜です。」

陽人がそう言った後に、私は「初めまして、香菜と申します。」と続けた。

「そうなんだ!初めまして、樹です。そんなに固くならなくていいよ、よろしくね!」と樹さんが優しい表情で挨拶してくれた。


樹さんに「固くならなくていいよ」と言われて、自分の名前の名乗り方が固い言葉になっていたんだと気が付いて、少し恥ずかしくなった。



樹さんは陽人の4歳上の30歳。陽人との会話を聞いているだけで、物腰の柔らかさが伝わってきて、直接会話をしていなくてもその場に楽しく居ることができた。

樹さんと陽人、またその周りの人たちの会話から、樹が多趣味なこと、最近ハマっていることなどを知った。

樹さんの服装はとてもお洒落で、髪も肌もきちんと手入れをされているので、何も知らないで街ですれちがったら、20代かと思うほど若く見える。


会話の中で時には面白い冗談も言う、そんな話力のある樹さんに、私は「すごいなあ…」と心の中で尊敬するばかりで、結局最後まで会話に入ることができなかった。



ライブ会場のお店が閉まり。帰りの電車に乗る為に駅に向かっている時に、初めて樹さんの全身の格好を見た。

お店にいる間はずっと座っていたので、履いている靴や背の高さをそこで初めて知った。

後ろから見た紺色のトレンチコートの丈はふくらはぎの中ほどまであり、陽人より少しだけ高い樹さんの身長ととても合っていた。靴はコートの色と同じ色でまとめていて統一感があった。


私は今まで、こんなにお洒落な男性の格好を見たことがなかった上に、とても好みの色合いの服装だったので、自然に「樹さんの服装、お洒落ですね。」という言葉が出た。

思いがけない言葉を後ろからかけられたからか、樹さんの表情は始めは驚いていたが、すぐに「ありがとう。」と嬉しそうに笑いながら言葉を返してくれた。


その日は寝る時まで樹さんのことが頭にあり、「少しだけでも話しておけば良かったなあ…」と後悔したと同時に、樹さんに対して興味が湧き始めた。

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