1. 三年生の始まり

「あっ、沙希!」

「駿夜!よく分かったね」

三年生の始業式。私がぼっちで登校していると、見慣れた顔の駿夜が後ろからぶつかってきた。

「駿夜って、通学路というか、どっち?」

「え?スーパーのほう」

「じゃあ結構近いね」

「沙希は?」

「スーパーの先のほう。坂あるじゃん?そこ下って、三つ目の交差点右ですぐ」

「あ~。なんか通ったことある気がする」

「夏休みになったらウチで勉強しない?めっちゃ快適だよ。扇風機も冷房もあるし」

「お~。そうしようぜ」

私たちは春休みになってからも、約束してないのに図書館に行ったし、一緒に話して教え合ったりして春休みを過ごした。

だから親睦は深まったと思うよ。

「あー、桜、きれいだな…」

「だね。この公園、天使に見える」

「それな。春になるとこの公園無かったら、俺泣く」

「な、泣くんだ…」

「あ、もしかして引かれた?」

「…かもね」

そう言って私はニヤリと笑う。

「う、うわあ、怖え」

「えへへ」

「クラス替えどうだろ」

「ね。ウチ六クラスあるから分かんないよ」

「でも六分の一の確率だろ?一緒になる可能性はあるにはあるんだから」

「まあね」

そう言ってクラスの用紙が貼られている目の前に行く。

「わあ!同じだぞ」

「…クラスが同じなだけではしゃぐなんて、幼稚園生みたい」

「うっわ、怒られたー…」

「えへ」

「すみません…」

駿夜があまりにもシュンとするから、「もういいよ」と言う。

「教室行こうよ、早く来た意味なくなっちゃう」

「ほいほい」

言葉を交わし、私たち3-Bの教室に向かった。



「こんにちは!初めての人もいれば、三回目の人もいると思います。3年B組の担当教師になりました。吉田楊輔よしだ ようすけです。一年間よろしく!」

「よーT、こんにちはじゃなーい」

始業式一発目、三年間吉田先生の生徒がツッコミを入れる。

「ああ、すまん」

その素直さに笑うのが、吉田先生のクラスのルーティーン。

おかげでクラスが和むのが、私は一番好き。

「高校生活最後の一年だ。楽しんでいくぞ!オー!」

…シーン。

「な、なんだ、みんな楽しみたくないのか、青春最後の一年を」

「いや?楽しみたいけど、高校生に流石にオーは無いと思って」

「同意見」

生徒のツッコミが上がる。

「あー、そうだな。前回幼稚園の先生だったもんで」

毎回吉田先生のツッコミの返し方が面白い。

「高校の先生になる試験とかあればいいのに」

「だよなー、でもその分なんか楽しいんだよ、よーTは」

「その通り」

いつも吉田先生のクラスはこの調子。

この調子が一番いいんだけどね。

「まあ、係決めでもするかー」

「係決め『でも』ってなんだー」

「そーだそーだー。高校生活最後の一年の係決め。そんなさらっと終わらせるつもりないからな、よーT」

「ああ分かった、しょうがねーなー。一二時間目、係決めにしてやるよ」

「いやったー!」

クラスのあちこちから歓喜の声が上がる。

「んじゃー自己紹介だ!おい、安藤から!」

「うひゃー、怖えー」

そう言いながらお調子者の安藤佐吾あんどう さごくんが立ち上がる。

「えーっと、あんどーさごでーす。好きなのはバナナとゲーム!特に今は佐々木ヤーサーが好きでーす、よろ!」

ありえないほどの大声で、安藤くんは自己紹介をした。

「相変わらずおちょーしもんだな!じゃー次、遠藤!」

このクラスは異常に苗字に『藤』がついている人が多い。

安藤くん、遠藤くん、佐藤さん、武藤くん。

「はあ。遠藤鷹詩えんどう たかしです。好きなことは勉強。それ以外に無い。よろしく」

そうとだけ言って遠藤くんは席に座る。

「おい、遠藤。もう少し愛想良くしないかー?」

「ホントだ。鷹詩、勉強LOVEなのは分かるけど、他のことにも目を向けようよ」

安藤くんが、何故か冷静になって隣の席の子から勝手に取った眼鏡をかけて、キラーンと光らせる。

…といっても、全然かっこよくないけどね。

えへへ。

「吉田先生って、けっこー面白おもしれえんだな」

駿夜が隣から耳打ちしてくる。

そう、何故か駿夜とは席が隣。

梶平と瑞結。『か』と『み』。すごく遠いはずなのに、教室が縦長すぎるせいで私と駿夜は席が隣になった。

「そうだよ。毎日こんな感じで授業進まないんだもん」

「まー、それなら良かったわ。俺授業退屈だから」

「た、退屈って…受験勉強頑張ってるんじゃなかったっけ?」

「まあ、やってるんだけどな?あの、いっつも夜に受験勉強始めると、楽しくてつい午前一時までやっちゃうんだよ。一時になると毎回机で勝手に眠っちゃうんだけどな」

「もー、そのせいで目の下のクマすごいんだ」

「やっぱりな…まあ、授業中に寝られんならいいわ。好都合」

「おーい、そこ!梶平と瑞結!喋んな!次梶平だぞ!」

「あ、す、すみません」

吉田先生に怒られちゃった。

話してた間に出席番号三番の尾崎悠おざき ゆうくんの自己紹介が終わっていたらしい。

まだ心の準備ができてないから、自己紹介噛みそう…!

「え、えっと、か、梶平沙希です。好きなのは読書です。よ、よろしくお願いします」

みっじかいよ、私の自己紹介…!

そして四回噛んだ…!(多分)

「はいじゃあ次」

日常会話の様に自己紹介が続いていく…。


「次瑞結!」

ハッとする。

眠ってたのかな…。

記憶がない。

次は駿夜の自己紹介らしい。

「はい。瑞結駿夜です。好きなところは図書館です。静かで好きです。高校生活最後の一年間、よろしくお願いします!」

パチパチパチパチパチパチ……。

今までで一番大きな拍手が沸き起こる。

駿夜はすごいなぁ。

噛まずに自己紹介もできるし、拍手もすごいし……。

私には遠い存在。

「じゃあ、次武藤!」

「ほーい」

そんな調子で自己紹介は続いていった。


私は、あとで、駿夜に図書館で出会って良かった、と思ったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る