第4話「 真実 」
「 突然お呼び出しして、申し訳ないわね。少し、お話があって。 」
この前話したところとは違うカフェに呼びつけ、詩子は真正面から彼を見つめた。
この前、詩子の家の前で詩子を見張っていた男。
「 な…なんでしょう、か? 」
最初の印象とは何ら変わりのない、優柔不断そうな雰囲気。
幸人だった。
「 1つ、聞きたいことがあるの。 」
詩子はティーカップに口をつけて、中の紅茶を喉に流し込む。
薄く赤みがかった唇についた紅茶が、照明によってつやつやと輝いた。
「 貴方…本当に、彼だと思うの? 」
テーブルに置かれている1枚の写真を、詩子は指でとんとんと叩く。
幸人は虚をつかれたような顔をして、詩子をじっと見た。
まるで、その言葉の真意を探ろうとするかのように。
詩子はその視線から逃げるようにして、目をテーブルに落とし、写真を顎でしゃくる。
「 私の質問に答えて頂戴。どうなの?本当に無関係なの? 」
幸人は、その言葉に動揺したように、額の汗を拭いた。
「 本当ですよ…。僕の家族を、殺した人だ。 」
震える声で、自分を言い聞かせるように彼は呟く。
詩子が更に詰めよろうと前のめりになると、幸人は1つ身を引いた。
「 な、なんですか… 」
幸人の目の中には怯えと、ほんの少しの敵対心が滲んでいる。
「 第1条。嘘をついてはならない。 」
詩子が幸人を見つめてそう言い放てば、幸人は気まずそうに唇を噛んで俯いた。
“ 第1条 ” というのは、詩子の管理人のしているサイト・「
第2条、3条もあるが、それはまた後に。
「 この依頼が全部嘘なら、受けることは出来ない。 」
その言葉を聞き、幸人は慌てて手を横に振る。
「 全部が全部、嘘じゃないです!! 」
幸人は、もはや懇願するかのようにそう叫ぶと、詩子の手を掴んで拝み始めた。
詩子が離れようとしても、彼の力は強く、離れることは出来ない。
「 お願いします…お願いします…! 」
周りの視線が詩子達に突き刺さり、詩子は耐え難い苦痛と怒りに燃えた。
詩子の瞳が赤色を帯びて、ぐるぐると回り始める。
詩子が彼の手を叩き払おうと手を上げた時、すっと誰かの気配を感じた。
詩子は咄嗟に手を下ろして自分の背後に隠す。
「 ちょっと!?店でぎゃーぎゃーやらないでください! 」
身長が詩子より5、6cm下の、女の子店員だった。
店のエプロンを付けたまま厨房から駆け出してきたのか、ところどころに焦げ跡や真新しいケチャップのシミが見える。
少女(?)は、腰に手を当てて幸人と詩子を見比べてた。
「 あの!注意してるんですけど! 」
少女が怒ったように声を上げた時、他の男性客から宥める声が飛ぶ。
「 セナちゃん、いいよ、ほっとこう。 」
「 変なやつらは気にするなよ。 」
セナ、と呼ばれた少女は、腑に落ちない様子で頬を膨らませていたが、他の店員に呼ばれると渋々引き下がった。
「 もういいわ、貴方と話すことは何もない。 」
詩子は彼の手が離れた途端、彼とさっと距離をとる。
そし、近くのペーパーナプキンで手を拭けば、幸人にそう言い放って店を出た。
幸人の視線と、周りの客の視線が入り交じって、詩子は背筋がむず痒くなった。
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