第20話 ロリッ娘と ”エイリアンの内臓”
無意識に壁を蹴る――という軽率な行動が、文字どおり道を拓いた。
鏡面のように滑らかな壁の一部が消え、その奧に果てしなく続く
「け、怪我の功名だね」
「イエスだ。しかし今後はこういう行動は控えてほしい」
「……はい、ごめんなさい」
俺を抱えて跳び
「先行する。マスターナイトは入り口で待機していてくれ」
ディーヴァは俺を放すと、出現した出口に向かった。
「き、気をつけて」
ドームから出た途端、セントリーガンの一斉射――がないとは言い切れない。
この空間が ”
ディーヴァは無造作に通廊に足を踏み入れた。
(す、少しは警戒する素振りをしてくれ!)
見ているこっちの心臓が撃ち抜かれるみたいだよ。
「生体、動体、音響、振動、すべてのセンサーに反応なし――マスターナイト、問題はないようだ。来てもいいぞ」
振り返ったディーヴァに、俺はふぅ……と額に浮いた汗を拭った。
そして恐る恐る通廊に出る。
何も……起きない。
ほんとに心臓に悪い場所だ。
「それにしても……またガラッと雰囲気が変わったな」
罠の類いがないことがわかって、ようやく周囲の様子に意識が向いたけど……。
これがまた、つるつるした床や壁がぼんやりを光っていただけのドームと真逆の、実に個性的な建築様式?だった。
通廊の幅は、高さ幅とも約一〇メートル。巨人だって通れる規模だ。
でも暗緑色の生物的というか、樹木的といか、ギーガー的というか、まるで
「”顔と名前のない人々” っていうのは、相当に前衛的だったんだな……」
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気温は低く汗も掻いていないのに、ジリジリと減っていく。
口の中が粘ついてしかなたい。
「急ごう、マスターナイト」
「うん」
ディーヴァが先行する形で、俺たちは進発した。
エイリアンの腸内の様な回廊はうねうねと果てしなく続いていて、進めど進めど、歩けど歩けど、終わりが見えない。
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「……ディーヴァ、扉を見落としてないかい」
このデザインじゃ、扉=
普通に視線を走らせた程度じゃ、絶対に見落としてしまう。
「通廊の表面は常時
「……そう」
迷宮物のゲームみたいに、いちいち壁を蹴って確かめてはいられないしな……。
ディーヴァの言葉を信じるしかない……。
(………………迷宮か……)
本当に、ここはいったいなんなのだろう……。
なんの目的もなく、こんな巨大な構造物を造るわけがない……。
王の住まいなら宮殿……。
神が奉られているなら神殿……。
居住施設のような場所は見当たらない……。
人が住んでいた気配は、いまのところ皆無……。
だとするなら神殿……?
56.892%
体内水分量が減少するにつれ、
脱水からの熱中症に陥っているのだろうか……?
(いや、大丈夫……まだ大丈夫)
鬼畜騎士マキシマム・サークの肉体は、これぐらいで音を上げたりしない……。
まだまだ行けるはず……。
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53.755%
52.637%
・
・
・
果ては……唐突に訪れた。
通廊は突然終わり、空間が大きく開けた。
「……こ、これは……」
視野を埋め尽くす光景に、息を呑んだ。
俺は……ボケボケだった。
「これはいったいなんなのだ?」
「……墳墓だよ……」
無表情に困惑しているディーヴァに呟く。
「……ここはお墓だったんだ……」
遙か視界の果ての果てまで立ち並ぶ、何百……何千の ”
それは古典で慣れ親しんだ、古代の皇帝の墳墓にそっくりだった。
(……異世界の
「
「……ああ、大昔の権力者が造った、死後のため
(…… ”騎士の鎧” は本来、権力者の死後を守るためのものだった?)
整然と、まるで無限に隊伍を組む装甲の騎士たちに、俺はこめかみにうずく鈍痛も忘れるほど見入っていた。
「な、なんだ、あれは……?」
そんな俺の意識をぶん殴り我に返らせたのは、突然視界に飛び込んできた ”異形”だった。
それは巨大な、あまりにも巨大な装甲で模した生物。
「ド、
その大きさ、形状……他に形容のしようがなかった。
しかもドラゴンだけじゃない。
巨人に猛獣。爬虫類に両生類。昆虫に怪鳥。
ありとあらゆる
中でも極めつけは……。
「…………
異形の中の異形。
魔物の中の魔物。
ねじくれた水牛のような角。
背中から生えたコウモリのような羽。
強靱な四肢。
太く長い尾。
一神教の教えが広まると共に教義に取り込まれ、尊厳を奪われていった太古の神々の姿が、そこにあった……。
「どれもわたしのデータにはない特異な形状だ。あれらもこの
「いや、あれは――」
俺が頭を振ったとき、目の前の空間にボワッ……! と、何かが浮かび上がった。
干からびた老婆の顔と、
半透明のみすぼらしくも怖気を震う姿が正面の一体を皮切りに、次々に出現した。
「ちょっ!?」
いくら
「――ディーヴァ!?」
甲高くむせび泣くと、一斉に飛び回り始めた亡霊たち。
そのうちの一体が、ディーヴァに襲いかかった。
もちろん、そんな攻撃を受けるディーヴァではない。
逆にカウンターで、しなびた眉間に
スピリットは霧散し、すぐにまた寄り集まって飛び回る。
「ふむ……ホログラフではないようだ」
右手に視線を落とすディーヴァを見て、ゾッとした。
ディーヴァの華奢な右手には、真っ白な霜が降りていたのだ。
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