鏡と君と僕と
トリノ ミラノ
第1話
『2年の
幼なじみと共通の友達が付き合っていても気づかないほど鈍感な僕でも知っていたから、きっと全校に知れ渡っていたのだろう。
紫鏡病は最近、発見された病で
判明したとしても治すことは不可能だと言うのが一番厄介なところだ。
きっと容姿端麗で学業優秀な彼女を妬んでのことだろう、その程度の関心で耳にいれていた
3年春 無事進級し、クラス替えのパネルを見ると、
3年D組 3番
8番 志村吏伊
と書かれていた。
別に気になっていた訳でもないのに、目は「志村」というただ一人の姓に目がいった
クラスに行き、机に座ると、志村吏伊が隣にいた。彼女は誰と話す訳でもなく、そこにいた。なんとも形容しがたい姿は儚い訳でも無いが、息をも感じないほど凜とした空気感がそこにはあった。
近くから「めっちゃ、かわいい」と声が聞こえる。最近の男はかわいいでしか、女性の美しさを語れないのだ。
「あの、志村さん一年間よろしくね」
「・・・」
完全に無視された。そう完全に無視された。その後も会話は無く。
自己紹介の時も、委員会決めの時も、彼女と話す機会は無かった。俺からはなしかけることはあっても、彼女から話しかけられることは無かった。
ある日、5校時に彼女が授業に居なかった。6校時目も居なかった。
放課後になっても戻ってくることは無かった。
「入間、保健委員会の仕事頼んでもいいか?」と先生に言われ、保健室に向かう。
保健室のドアを開けると「失礼します。」
「って、志村さん!?」
そこに居たのは紫色のした瞳が輝く『志村吏伊』が保健室の椅子に座っていた。
紫色の瞳は、紫鏡病の僕でも知ってる典型的な症状である。
彼女と目が合う。コツコツと足音を鳴らしながら、俺目がけて歩いてこう言った。
「今見たでしょ?」
その問いかけに一瞬、僕は誤魔化すような仕草をした。
だが、彼女は間髪入れずに、「見たんでしょ。もういいから。」
諦めたように彼女は僕に事情を話しだした。
志村吏伊は噂どうり紫鏡病らしく、中学3年のときに判明して3年近く経つそうだ。それ以来、両親からは友達を作るなと言われ、彼女はその言葉に従ってきたと言う。
彼女が話さなかったのは、話せないのではなく、話さなかっただけであった。
「目の色を隠すためのコンタクトレンズを無くしてしまったの。だから授業は休んで、みんなが帰った時間に帰ろうと思ったのに、君が来たから台無しよ」と呆れたように言った
その話をきいた瞬間に何か使命感を感じる。
「だったら、僕が友達になちゃっダメかな?」心からその声が出た。
「なんで貴方と友達にならなきゃいけないの。」
「じゃー、友達じゃなくてもいいから協力関係を結ぼうよ。」
「仕方ないはね。その代わり、病気のことは言わないって条件つきならいいわ。」
「おっけい。俺からは一に、学校にいるときは声を掛け合うこと。
二に、互いに気を遣わないこと。
三に、これからは外では呼び捨てで呼ぶこと。」
彼女は戸惑いつつも「あ、うん。」と言った。
翌日、クラスに到着し机に座る。隣を向くと彼女がいた
「あの、志村さん。おはよう」
「お...はよう。」慣れない素振りで言う。
クラスで話した彼女を誰一人として見たことがないため、まわりが騒めいた。
これは3年初めてのときからは考えられない日々の序章にすぎなかった。
特にびっくりしたのは、彼女の変わりようである。
あんなに冷酷に見えた彼女の瞳も、今では鮮やかに色づいている。声色も明るくなっていった
彼女は好きな食べ物、好きな曲、好きな小説、いろんな好物を教えてくれた。
だが、病気の原因のことは一つとしてこぼすことは無かった。会って一年も経っていない僕に話すはずも無いか。
夏になり、蝉の鳴くころになった。
夏休み、受験生である僕らは自然と勉強に力を入れることになる。
そんな時だった、彼女からこうメッセージが来る
《夏祭りって興味ある?》
《いつもは家族と言ってるんだけど今年は忙しいって言われて》
《一緒に行かない?》
この3つのメッセージで心が躍る。
《うん、誘ってくれてありがとう》
聞かれてほんの少しで返信をした。
《ありがとう》
《じゃあ来週、いつもの公園前で》
その日からウキウキして、眠るに眠れなかった。まぁ勉強はいっぱい出来たけど。
気づくと夏祭りの日になっていた。
次第に激しくなる鼓動は公園への歩みを速くする。
約束の公園に向かうとそこには浴衣姿の彼女がいた。赤い色の金魚がたくさん居るような浴衣だ。
いつもとは違う彼女にドッキとする。
心臓の鼓動は公園から歩き出しても変わらない。
会話のない時間が続き、強張った口を開く。
「夏祭りって久しぶりだなー。小学校以来行ったことないかも、最後に行った時、そういえば迷子になっちゃったんだよね」
「小さいころから入間君って方向音痴なんだ。」
「僕は方向音痴じゃないよ、ひどいな。」
そんな会話をして、会場についた。
お祭りムードのどんちゃん騒ぎになっており、こんな感じだったなと昔のことを思い出した。
縁日を見回って焼きそばを食べたり、金魚すくいをしたりして、夜になるにつれ、暗くなり人が増えてきた。
「志村さん、次、何する」
返事が返ってこなかった。
周りを見渡しても彼女はいない、はぐれてしまったようだった。
「志村さーん」と呼んでも声はしない。
すると、スマホのブザー音が鳴る。
《神社まで来て》
メッセージをみて、走り出す。
息が上がる。
神社の階段を上がると、暗くてよく見えないが、彼女がいた。
「志村さん、きたよ」
彼女は気づいた様子を見せて、
「入間君、小学校のときの夏祭り覚えてる?」と僕に問いかけてくる。
「さっきもいったけど、覚えてないよ。」
「そっか。忘れちゃったんだね。残念。でも、大丈夫、忘れてくれていいから。本当はね、私たち子どものころ会ってるんだ」
『忘れてくれていいから』その言葉に僕は驚きの表情を隠しきれなかった。
覚えていないということと彼女がそのことを隠していたということの2つに驚いた。
その時、ふと記憶の奥底から昔の情景が浮かんできた。
夏祭りの日、僕は迷子になったのではなく、誰かと遊んでいた。
「塁くん、早く来て!!」 「待ってよ、吏伊ちゃん!!」
ハッとして、声を出す
「思い出したよ、あそこにいたのはあの日いたのは君だったんだね。」
彼女のもとに歩み寄る。
彼女は保健室で見たあの瞳をしている。
「あのね、入間君言わなきゃいけないことがあるの。」
彼女の見たことのない雰囲気に少しだけ息が止まりそうになる。
「あの日のことが病気の原因なの。だからね、もう一緒にいられないんだ。」
彼女の告白は背負っていた重圧を必死に振りのけるようであった。
僕は彼女の告白にどう答えるか悩み、空白の時間が約30秒ほど続いた。
そして、振り絞った言葉は、
「もっと一緒にいたいよ。高校を卒業しても、社会人になっても、一緒にいてよ」
彼女にずっと言えなかった言葉が出てきた。ほぼ告白じゃないか。
すると、彼女の声がくぐもる。
顔を見ると紫色の瞳から涙が落ちていった。
「ありがとう、塁君。うれしいよ、君からそんな言葉が聞けて」
そう言いだすと、彼女は走り出す。
そして、慣れない浴衣姿で僕の方にきて、小さな身体で僕の身体を抱きしめた。
「私が死ぬまで一緒にいてよね。」満面の笑みを浮かべた。
僕も笑顔で「うん」とうなづいた。
彼女の人生は僕との記憶によって、削られていく。
その一日一日に僕はどんな君を映すことができるだろうか。
その時に鏡に映るものは、笑う君と僕であってほしい。ただ、それだけ。
鏡と君と僕と トリノ ミラノ @MINQWAsu
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