ガリヤ人の事情



私は普段から、日中に人目のある場所を出歩かない。

全くもって駄目な訳では無いが、ガリヤ人の白い肌は他民族のものよりも少し日差しに弱いからだ。


それともう1つ、いくら中立の国と言えど、ガリヤ人への風当たりは外では決して弱くはないからだ。

その時は帽子も衣服も深くまとって外出する。もう慣れたものだが、気に留めず取引をしてくれるマトリエの取引先はありがたい。もちろん当主の口添えもあるのだろう。


頼まれた薬品等を手に入れて、私とリヒトはクラウディアへの帰路についているところだった。


「それとね。ホセさんも、とっても良い人だった。『いつでも飯食いに来いよ』って。カッコさんとはずっと口喧嘩してたけど、でも仲良しそうに見えたよ?あとカラマーロって食べ物ビックリしちゃった。あんなの初めて」


リヒトは道すがら楽しそうにソリブでの話を続けた。

ダコタ産のカラマーロを知ってしまったならば、もう他所よそでは食べられないだろう。


「美味しいだろう?生食の文化はクラウディアでこそだ。流通と品質管理がちゃんとしてるからね。特にセイリオス区は新鮮さでぐんを抜いている」


「ノヴォさんも好き?」


「大好きだよ。私は火を通した魚料理の方が好きだがね」


ガリヤ人は他民族に触れられぬだけではない。他の生き物も触れることで命を奪ってしまう。

生食文化も無かったし、最初から食用として売られている肉を購入して火を通す。食肉業務や搾乳さくにゅう業務はガリヤ人にはあつかがたいのだ。


ガリヤ教義にある命への奉謝ほうしゃ敬仰けいこうの教えもあいまって、ベジタリアンもいまだに多い。


初めてホセに料理を振る舞って貰った時はその美味しさに驚いた。

そんな私を見て皆が嬉しそうに笑ったことも未だにはっきりと覚えている。


エチケットとして、私は食卓を囲む際に必ず自分専用のグラスと料理を別に用意してもらっているが、周りの皆は嫌な顔1つせず自然に私と食卓を共にしてくれる。

その時の笑顔が何よりも料理の味を際立きわだたせるのだ。


リヒトは私の返事に一瞬申し訳ない顔を見せた。


「あ、そっか……ごめんなさい。ノヴォさん、生は……」


「少しなら食べれないことは無いんだよ?出来上がった生料理はね。ただ、昔から野菜ばかり食べていたから焼き魚や煮魚の温かい美味しさにハマっちゃったんだよ。ホセのせいだね」


そう言って笑うとリヒトも安心したように笑った。


「じゃあ、これからたくさん一緒に食べよ」


「そうだね。ホセの白身魚のパッツァなんかは絶品だよ?」


「わぁ。早くノヴォさんと一緒に食べに行きたいなぁ……」


流石、孤児院一番の大食いのリヒトだ。知的好奇心の強い子だが、ことさら食の話になるとその目の輝きはさらに光を増す。

私はクスクスと笑った。


───早くノヴォさんと一緒に食べに行きたいなぁ


当主やカッコ、ホセに子ども達。彼らに出逢わなければ、こんな風に言ってくれる者などいなかった。

有難い……本当に幸せなことだ、と私はリヒトの言葉をみしめて歩を進めた。







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