第11話 小さな生物学者 (ノヴォ)

浮気疑惑 ──酒の脅威──







      私達が護らねばならぬのだ

         次なる時代に

     これ以上涙を流させないように













強い。

瓦礫の隙間すきまに根を張りながら、どんなに踏みしめられても、どんなに風に吹かれても起き上がり花を咲かせようとする。


リヒトは、いやリヒトだけではない、この国に息吹いぶく若き達は、まさにあの廃墟でもりんと立つ若葉そのものだ。


私はリヒトと並んで歩きながら、その表情を見て感嘆かんたんしていた。先日までとは見違える程にほぐれている。


「それでね、カッコさんもピアナ様も『イータ師長がイータ師長がぁ』って言いながら、結局最後まで飲んじゃったんだよ?」


ソリブでの話をしながらたのに笑う彼につられて、私も笑う。


「やっぱりそうか……。今朝の様子でわかったよ。私も行きたかったな」


カッコはリヒトに何をしたのだろう。勿論まだまだ心にかかえているものはあろうが、すっかり元気になっていた。

全くもって皆のぐな強さにはかなわない。


しかしカッコにおいては、普段のその頑張り過ぎる反動のせいか、たまにお酒を楽しみすぎるようだ。

そんなところも含めて愛くるしいのだが、今朝のカッコは少し具合が悪そうであまり話も出来なかった。


当主も含めて年々お酒に弱くなっている気がする。今頃はイータさんにこってりと絞られていることだろう。


今朝のカッコを見た私は一番に驚いてしまった。

お酒の残り具合にではなく、ほほや首元にあざのように残ったキスマークを見つけたからである。


───まさか浮気?……いやカッコに限ってその様なことは……。


触れることすら出来ぬ私は、カッコの心を満たせていなかったのではと嫌疑をかけてしまった。


───こ、これは何だ?


たずねるべきか、カッコを信じて知らぬ振りを通し心にとどめておくべきか、私としたことが恥ずかしくもすっかり動揺してしまった。


たまらずこっそりとリヒトにたずねたところ、カッコをしたう女性の後輩看護師が酔っ払ったカッコと当主を見て、ここぞとばかりにイチャついたらしい。


私は少しホッとしたが、いやはやしかしお酒とは恐ろしい。そして動揺した自分も恥ずかしい。私もお酒には気を付けようと気持ちを正した。


──カシミールが言ってたよ。ああいうの『変態』って言うんだって。


───カ、カシミール……。変態って……。


今朝の事情説明の最後にリヒトからそう聞き、私は思わずひきつり笑いを浮かべた。

リヒトは新しく得る知識に好奇心が旺盛おうせいだ。拡がった見識をとても嬉しそうに、悪意無き純粋な瞳で話していた。


変態とは少し語弊ごへいもある気がするが、純粋すぎるリヒトにあまりズレた世界を見せてはいけない。

リヒトが元気になってくれたのは良いが、何かおかしなものまで覚えてきてしまったようだ。

間違った世界を覚えさせないように、私も見ていてやらねばならない。


───カッコ……どうか誇りある生き方だけでいて下さい。


と、カッコがそんな状態なので、その代理として私とリヒトはクラウディア東に位置する中立国マトリエに使いにおもむいた。


クラウディアから東に広がるナトラシーヌ自然保護区を越えた先にある小さな国。

国内で供給きょうきゅうしきれない医療薬品、医療原料を補充ほじゅうする為の、言わば買い出しである。






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