カッコと子ども達
ルビーノは広間を過ぎた廊下の先まで私達を連れてゆく。
差し掛かった部屋の扉の前で止まると、その扉についた大きな
彼女はベッドで上半身だけ起こして日記をつけていた。
「彼女はチェルカ……17歳よ。3年前の災いの日に家族を亡くして、彼女自身も片耳の
リヒトはじっとその子を見つめていた。
やがてこちらに気付いたチェルカちゃんは筆を持つ手を止めて、少し
手を振って笑顔を返したルビーノを見て、彼女はまた日記に筆を走らせ始める。
ルビーノは悲しそうに目を細めた。
「素敵な笑顔でしょう?優しくてとても良いお姉さんなのよ?でもね……彼女の朝は涙から始まるの。毎朝起きる
そんなのまるで地獄じゃない。そんなひどい話があるだろうか。
本当に争いなんてこの世から無くなればいい。どうしていつの世も、罪の無い人々ばかりが苦しまなくてはならないのかしらと思う。
「レノンもちゃんと聞くのよ?」
ルビーノの話を聞きながら、私はレノンの目を見て手をキュッと握った。
返事をするレノンの向こうでリヒトはひたすら黙って部屋の中のチェルカちゃんを見つめていた。
ルビーノは静かにそのリヒトの手を引きながら、今度は隣の部屋の前へ連れて歩く。
その部屋では若い看護師が付きっきりですすり泣く小さな男の子を看病していた。
「あの子はインペデ……7歳よ。でも他の7歳の子よりちょっと小さいでしょう?
───レノンと同い年の子だ。ああ……
私は思わずため息を
骨が変形したりとにかく
ルビーノは続けた。
「ひどい
───信じらんない……。その親ども!子どもを何だと思ってるのかしら。
私は鼻息を
「最初のうちは皆でその
それはまさに彼に
「パミルネートの処方は?」
「さっすが先輩、情報が速い。認可が下りて最近
心配で思わず話に
「まだ新しい薬だから、医師とこれでもか!ってくらい話し合って
「はい!もちろんです!」
パミルネートは、ほんの数年前まで不治とまで言われた難病『
ほんの最近になって作られた新しい薬で、一部で効果が認められ始めている。この薬がこの子達の救いになってくれることを期待されている。
それからルビーノは引き続き部屋の子達を案内しながら話してくれた。
その子達の抱える
生まれつき目が見えないけれど音だけを頼りに皆と仲良くなった子。
災いの日に両腕を失くしたけれど絵がとても上手な子。
1人1人のことを
ルビーノがある程度の案内をしてくれたところで私は彼女にお礼を言い、静かにここの子達を眺めていたリヒトに向き直って話しかけた。
「ねぇ、リヒト。さっきのソリディもね、見た目は元気だし年長さんとして皆の面倒まで見てあげてるみたいだけど、片方の目と耳が
「けつゆうびょう?」
リヒトは広間で子ども達と遊んでいるソリディに目をやった。
「そう。怪我をして血が流れても、他の人みたいに
「あ……」とリヒトは声を
近年になって確立されつつある、とある
医学の
それはともかくとして、血液の中に何があるのかも少しずつ
そこから、この
「フィブリーナとはまた全然
私はぐるりと院内を見渡した。
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