カッコとルビーノ




屋上からながめるレノンは楽しそうにボールを追いかけて、リヒトもその笑顔につられて顔が少しほころんでいる。


とりあえずレノンも連れて来て良かった。

リヒトも歳下の子の相手をしてくれている間は、少しくらい気もまぎれるだろう。

さぁ、今のうちに作戦会議だ。


「ごめんなさい。わざわざ先輩まで来て下さったのに、私何も役に立たなくて……」


「仕方ないわよ、本人の意思なんだから。ルビーノはお仕事大丈夫なの?」


「私は大丈夫です。先輩達来るからって少しけてもらってますから」


「悪いわね……。でもどうしようかしらねぇ」


私はさく頬杖ほおづえをついた。ゆるやかな風に髪をらされる。

あれやこれやと少し考え込んだ。


「あの子……東の生き残りなんでしょう?教えにそむいてでも故郷を守りたい、取り戻したいって……」


ルビーノは隣でさくに手を掛けながらリヒトをながめて、さっきよりも物憂ものうげな声でそっとつぶやいた。


ルワカナの治療のためここに飛び込んだ際、ピアナ様はここの医師にすら経緯けいいせたけれどルビーノにだけは事実を語った。

もちろん秘密厳守を約束に。特に看護師は患者の内面にも寄り添わなきゃいけないから。


ルビーノは口も固いし、人としても信頼に足る素晴らしい看護師だ。だから私も彼女を推薦した。ちょっと変態だけれど……。


先程ルワカナとの二人三脚の日常を少しだけ聞いたけれど、口外禁止を約束にお互い良い関係を築いて過ごしているらしい。

彼女はスルグレアの裏の実情を知る数少ない看護師だ。


「まだ小さいのに……すごい意思。そんな子のいるアリア孤児院、医療院でのお仕事はどんな毎日なんですか?」


「ん?私ぃ?……リヒトみたいに、子ども達の中に少し心配な子もいるけど、孤児院の子も通院してるどの患者さんも皆、基本的に明るいかな。毎日バタバタよ?」


ルビーノは私の顔をのぞき込んだ。


「あのイータさんもいるし、その娘さんまで研修でいるんでしょう?アリア医療院、今すごいバリバリ仕事出来る人達がそろってるイメージ……」


イータ師長は看護師界隈かいわいの中でも尊敬を集めるレジェンドだ。その娘とあって、研修中のラキムにも自然と同業の視線が集まる。

私は普段の医療院の日常を振り返って少しだけ困り顔をした。


「あ~、確かにイータ師長はすごいんだけど……。娘のラキムがねぇ……。まだまだなのよ」


「でもあのイータさんの娘さんでしょう?」


私はラキムの巨漢きょかんの体型を思い浮かべた。


「確かに勉強は優秀だし、仕事も少しずつでもしっかりやる子よ?でも致命的な欠点があってね、血が駄目なの……」


「ええ!?」


「性格も体型も図太ずぶとくて、言うこと一丁前なのに、そこだけがどうしても駄目なの。結局嫌がって暴れる子をおさえるサポートばかり。なんとか克服こくふくさせてあげたいんだけど中々ね……。いつも私が彼女の分まで採血とかしてるわ」


「それは大問題ですね……。でもやっぱり先輩はすごいなぁ。子ども達のみならず後輩の面倒見まで良くて」


ふと横を見るとルビーノの顔がみるみる内に沈んでいった。


「それこそ……私こそ駄目です。いつまでっても先輩みたいな立派な看護師になれない」


「ちょっと……。アンタまで落ち込んでどうすんのよぅ。それに私、立派なんかじゃないわよ。今でもいっつも反省して無力感ばっかりよ」


思わず溜め息がこぼれた。心に寄り添うことは本当に難しい。


「そんなこと無いです!今の若い看護学生達の間でカッコ先輩を知らない人なんていない。みんなあこがれの的ですよ?」


「え?そうなの?」


「そりゃ、そうですよ!先輩は臨床りんしょう心理しんりの重要性を認めさせて看護のかたまで変えた!何より史上初にして今でも唯一の皇認こうにん看護師試験、飛び込み受験合格者。先輩の功績こうせきで最近、看護科のカリキュラムまで変わったんですよ?」


「ええっ?」


そんなに偉いものではないと思うけれど。

毎日お仕事ばかりで私は全く知らなかった。











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