ガリヤの力



「わかりました」


僕は静かに返事をした。


「コソコソ相談かぁ?どれだけ小細工しようが俺のはやさの前じゃ無駄だよ」


ルカは瞬時に新たな手投げ弾のピンを抜く。すかさず投げられたそれを、ノヴォさんは消えるように前に踏み込んでルカに蹴り返した。


2人の間で爆音が響く。

その爆煙の中から急に現れて跳び掛かるルカとノヴォさんは咄嗟とっさに取っ組み合った。


いつの間にか持っていたルカのナイフと、ノヴォさんの針がお互いの皮膚をかすめる直前で膠着こうちゃくしていた。


「光はかげっても警戒はおこたらない。経験は伊達だてじゃねぇな……雷光フルミネ


傲慢ごうまんな若造は、考えが読みやすいんだよ……」


2人とも力を込め対峙たいじしながら、不敵ふてきに笑った。


「そうかよ……。確かに同族の先輩さんだけに演奏を求めるのは失礼かもなぁ。じゃあ俺も奏でてやるよ。だからよぉ、一緒に……」


ルカの表情が変わる。同時にその両足はビキビキと音を立てて屋上の地面にみついた。


闘いの音楽が夜に鳴り響く。


JAMジャムろうぜぇっっっ!!」


「リヒト!走れぇぇっ!」


2人が叫ぶと同時に僕は振り返って必死に駆け出した。

後ろから2人の組み合う音が夜を裂くように響き渡る。


僕は階段を跳ぶように駆け降りて1階まで辿り着くと、その勢いのまま瓦礫の海に飛び出した。


緊張で心臓が破裂しそうだ。

瓦礫の合間を駆ける僕の背後からは、すぐに爆音とともに奇妙きみょうな音が聞こえた。


思わず振り向くと、屋上の爆炎を背に飛び降りたルカが2階付近の壁を蹴り跳ばす。

そのまま僕の背後にすべりながら着地すると砂塵さじんを上げた。


───ウソ!?そんなこと出来るの!?ケガしないの!?殺され……。


ほぼ同時に追って突っ込んできたノヴォさんと、また取っ組み合う。


「振り返るな!走れ!」


僕は真横に死を感じて息が止まった。

緊張で止まりかけた息のテンポを再開させて走り出した僕は、続け様に嫌な音を聞いて即座にまた振り返ることになる。


───ちょ……ちょっと待って?


手投げ弾のピンが抜かれる音だった。

あせ顔のノヴォさんと、笑みを浮かべて組み合うルカを背に、ゆっくりとを描きながら手投げ弾がこちらへ向かってくる。

僕は咄嗟とっさに瓦礫の影に身をかがめた。


聞き慣れた爆発の轟音ごうおんが真横で響く。音と一緒に爆炎の熱が身体に伝わった。


ルカは本気で僕を殺しにきている。

ノヴォさんが防いでくれているにも関わらず、その殺意は常に僕のそばにあった。


僕は加速する心臓の鼓動を押さえつけるように立ち上がると、急いで再び地を蹴った。

時折ときおり向かってくる手投げ弾に気をつけながら、ノヴォさんを信じてずっとずっと走り続けた。


───何が守るだ……。

───結局僕は、今も守られてばかりだ……。


驚き、悔しさ、不甲斐なさ。

色々な感情を抱えて僕は手足に力を込めた。


───走れ!せめて少しでもはやく。


夜風をいて僕は走った。







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