作戦会議②



意外そうなリヒト兄ちゃんに、ノシロン兄ちゃんは「チッ」と舌打ちをすると、ドカッと机に脚を組んだ。


めてんじゃねぇよ。そのたった2人を、俺らは仕留しとめきれねぇんだよ」


「ノシロン。行儀ぎょうぎ悪い、口悪い」


とがめるカッコさんに、ノシロン兄ちゃんはまた舌打ちをして、脚を下ろすと椅子に仰け反る。


「ど、どんな奴なの?」


たまたまリヒト兄ちゃんと目が合ったカシミール姉ちゃんは、視線を窓の外にらしながら静かにつぶやいた。


「めっちゃキモい奴……」


「キ、キモい……奴」


ひきつるリヒト兄ちゃんにノヴォ兄ちゃんが優しく説明を始めた。


「ガリヤとしても大規模な表立おもてだった争いは出来ない。今攻めて来るのは五高官ごこうかんのうちの一家、アリオス家の兄弟だ」


僕もみんなもこいつらが大っ嫌いだ。


「歳は皆より少し上くらい。アリオス家当主の兄ルカと弟のシロン。前はそうでもなかったのだが、最近はずっとこの2人だ」


「でも、どうしてたった2人で毎回来るんですか?」


「作品を作りたいそうだ……」


「作品?」


リヒト兄ちゃんは首を傾げた。


「そうなんだよ」と困ったあきれ顔でため息をつくノヴォ兄ちゃんに変わって、今度はノシロン兄ちゃんが口を開いた。


「兄貴は音楽家気取きどりで弟は画家気取きどりだ。そいつらはガリヤの中でもただの快楽犯だよ。今じゃすっかり俺らとの戦いを楽しんでやがる」


アリオス兄弟を思い出したのか、ノシロン兄ちゃんはすごく嫌そうな顔でまた舌打ちをした。


「なんでも俺らで作品を作りてぇんだと。ワガママ言って毎回出陣するらしいぜぇ?したがってた家従かじゅうの連中も自分でふっ飛ばしたり愛想あいそかされたりで今じゃ2人だ。一つ言っておくがリヒト、話の相手なんかしなくていいからな」


「は、話とかするの?」


「とにかくベラベラうるせぇんだよ。ま、お前はすぐにやられちまうだろうけど」


「ノシロン!」


再びカッコさんがとがめると、ノシロン兄ちゃんは「ふんっ」と目を閉じた。


「な、なんかイメージと違う」


話を重ねる度にリヒト兄ちゃんは困惑の表情を見せた。


「しかしアリオスの兄弟は現在のガリヤで屈指くっしはやさを持つ。それが手投げ弾をらしながら暴れ回るんだ。危険なテロリストであることに変わりない。正直、今の私よりもはやいよ」


「ノヴォさんよりも?」


「そうだ。それに性格も間違いなく残虐ざんぎゃくだ。しかしガリヤ人は持久力だけはないから、とにかく自分の身を守って相手の爆弾をきさせること。仕留しとめることよりもまずまもることだ」


ノヴォ兄ちゃんは真面目な顔でぐこちらを見つめた。


「前回も『次はお前らの目からえぐってやる』なんて台詞ゼリフ残して去って行ったからね。リヒト、先走ってはいけないよ」


言葉を失ったリヒト兄ちゃんを見て、カッコさんが涙目で訴えかける。


「んもぅ!ダーもノシロンもどうしてリヒトを怖がらせるのよぅ!リヒト、怖かったら行かなくていいんだからね?てか、行くのめなさい。ね?」


「いえ……。そんな危ない奴らを放っておく訳にはいきません。みんなを護らなきゃ」


「なんでそうなるのよぅ、アンタはぁ」


カッコさんが項垂うなだれると、ようやくピアナ様が口を開いた。


「皆、勝手に話を進めるな。情報共有は大事なことだが、今回リヒトは参戦しない」


「え?」


「今回リヒトはヒンメルとシエロの護衛だ。2人が発光弾を放ち次第、速やかに防護壁よりこちら側へ戻ること。カッコと私が端にあるネメア礼拝堂に待機している」


「はい!」


「ええ?」


僕と兄ちゃんは声をそろえて返事をする。

リヒト兄ちゃんだけがポカンとしていた。


「カシミールは南地区担当。ノシロンは東地区北側担当。それぞれ壁より5キロのところの瓦礫バリケードが最終防衛ライン。中央のノヴォがリーダー。現場での判断は各々おのおの任せる」


「はい」


静かに返事をするカシミール姉ちゃんとノヴォ兄ちゃん。ノシロン兄ちゃんも小さく「うぃっす」と返事をした。


「ちょ、ちょっと待って下さい。僕、手合てあいの約束は果たしました。だから一緒に戦わせてくれるんじゃ……?」


「覚えてないのかい?リヒト。私は『ノシロンにれることが出来たなら東地区に行く願いを聞き入れよう』と言ったんだ。戦わせるなんて言ってないよ」


「そ、そんなぁ」


リヒト兄ちゃんは落ち込んでうつむいた。

胸をで下ろすカッコさんの前で、ピアナ様は優しく微笑ほほえんだ。


「慌てるんじゃないよ、リヒト。正直感心している。手合いの約束を果たせるなんて思ってなかったからね。ただ、まだガリヤ人と対峙するのは無謀だ。それに、私の代わりという大役を任せたつもりなんだがね?」


「え?」


まさかの答えだったみたいで、リヒト兄ちゃんは驚いて顔を上げた。


「ヒンメルとシエロの護衛は私がしていた。見張り番の場所まで、今じゃ屍人しびとはまずいないが、それでも遭遇そうぐうする可能性はゼロじゃない。大切な2人の家族を、私の代わりに守ってはくれないかね?」


「ピアナ様の……代わり」


「そうだ。重要な役目だよ」


ピアナ様は、優しくも強い眼差しで言った。


「リヒト。ヒンメルとシエロの命、預かってくれるか?」


リヒト兄ちゃんは力強く応えた。


「あ……はい!2人の命、必ず護ります!」


それから戦いで着る黒いお洋服を貰って、リヒト兄ちゃんは決意を秘めた眼差まなざしでみんなと一緒に部屋を後にした。




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