お菓子作り
はず、だったんだけど……。
「そんな危ない奴ら相手なら人手多い方がいいよねぇ?いくらノヴォさんが
───うぅ……。リヒト兄ちゃんもこうなったら止まらないんだな。お菓子が美味しくなくなっちゃいそう。
僕は兄ちゃんに言われた通りに材料を
「仕方ないって。何ヵ月もかかって参戦したノシロン兄ちゃんだって、今ですら『
兄ちゃんに言われてリヒト兄ちゃんは急に何かを思い立って顔を上げた。
「そういえばノシロンの武器って鞭だよねぇ?僕やノヴォさんのみたいに、フィブリーナの針でも先っちょについてるの?」
「え?オルキアス
「おるき?え?」
───あ、リヒト兄ちゃん知らないんだ。
「オルキアス
「な、何それ?そんな金属あるの?」
「うん。何でも大昔から発見はされてたんだけど、ダルキアの時代になって初めて作り方がわかったすごい金属なんだって。それがついてる鞭が、ノシロン兄ちゃん愛用の『スネイク』なの」
オルキアス
大昔にあったオルキアって国の遺跡で見つかった波模様の金属で、何百年かかってもどうやって作ったのかわかんなかったみたい。
ずっと『神話の錬金術』だとか、『神様の落とし物』だとか言われてたんだって。
はがねの中にべつのぶっしつのせいしつをまぜこんでせいせいする?だったかな?
難しいことはわかんないけど、とにかくすごい金属で
ダルキアの時代の有名な職人さんが死ぬまで時間をかけて作り方を見つけたんだとか。
凄すぎて僕らにはちんぷんかんぷんだ。
とにかく、その技術を使ってふぃぶりぃなの力を込めた青白い
「怖いよぉ?かすっただけでカチンコチンになっちゃうよ?でもノシロン兄ちゃんがスネイクを振り回すと、とても綺麗なんだ。まるで青く光るお星様みたい」
兄ちゃんは生地を
「あんな鞭、普通の人じゃ扱えないよ。ノシロン兄ちゃんはものすごく頑張って防衛者になったんだ。だからリヒト兄ちゃんも慌てることないよ」
僕も元気づけようと笑いかけたけど、リヒト兄ちゃんはまだ沈んだ顔をしてたから、洗った苺の1つをイタズラっぽく口に押し当てた。
「えいっ!」
「うわっ!」
「特別だよぉ。これ食べて元気だして」
苺を突っ込まれて、リヒト兄ちゃんの目はみるみるうちに輝き始める。
「な、何これ?美味しすぎる……」
「でしょう?ジャムにするのがもったいないよねぇ。これが兄ちゃんの生地の中に入るんだよ?楽しみでしょー?」
「あ!ずるいぞ」
横で兄ちゃんも
「この世にこんな美味しいものがあったなんて」
「僕ら頑張ったんだ。今まで色んなお菓子作ったけど、こんなすごいの初めてだよ?リヒト兄ちゃんにはとびきりの出来立てをあげる。だから元気出して」
「そうだよ。元気出して」
リヒト兄ちゃんはやっと笑ってくれた。
「うん。ありがと、ヒンメル、シエロ」
でもすぐに
「いや、やっぱり取っておく。帰ってから必ず食べるよ」
それはリヒト兄ちゃんなりの『必ず皆で無事に帰ろう』という気持ちの表れだと思った。
そしてリヒト兄ちゃんが元気に戻ってくれたことが、その時何よりも嬉しかった。
「うん。皆で無事に帰ろうね」
「うん。だからもう一個ちょうだい」
「リヒト兄ちゃん!」
声を
「ホント食い意地すごいんだから……。もう卵混ぜるの充分だよ。早くこっちにちょうだい!」
材料を催促するヒンメル兄ちゃんに、リヒト兄ちゃんは笑いながら返事をする。
2人のやり取りに、何だか僕も温かくなって笑った。
───毎日がずっと、こんな日ばかりならいいのに……。
───争いや、辛いこと、悲しいこと。全部なくなって毎日が笑顔で
ゆっくりと火にかけている苺を見つめた。
見たこともない新しいお菓子にワクワクする一方で、出来上がってしまったらみんなが戦いに行っちゃうんだと思うと、また少し胸の中に暗い気持ちが満ちてくる。
───このままずっと……、ジャムが出来ずに苺を見ていられたらいいのにな……。
かき混ぜながら、少しだけそんなことを思った。
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