努力の道筋
彼は驚く私の所まで来ると、
「ビックリしたよ。見つけたと思ったら
「どうしてここに?」
彼は息を整えながら頭を上げる。
「僕、最近よく走ってるんだ。カッコさんに聞いたら、多分カシミールはここだって。料理のお礼もしたくて、ついでに手伝えないかなって……」
───カッコ
「名前も?」
「あ、カッコさんに聞いて。ごめん」
私は重たさに
「いいえ。ありがとう」
私は素直に感謝した。一瞬
もしかしたら盗られていたかもしれない。
───大切なバッグ。彼のおかげだわ……。
私は少し
「でも、もう終わったの。帰るわ」
「あ、持つよ」
無邪気に笑顔を見せて手を差し出す彼を見て、感謝はあれど私は
まるで周りの人と同じような希望に
ホセさんのお店でノヴォ兄に聞いていたイメージと違う。災いの日に全てを失って3年も生き延びて、自ら印を傷つけて参戦を
私と同じように過去に足を向けた子だと思っていた。でも目の前の彼は
どうしてそんな顔で笑えるのだろう。私は
「
少し突き放すように言うと、彼は
私は早く事を済ませたい一心で孤児院への帰りを急ぐ。
すると彼も後ろをついてくる。
「もう買い物はいいのよ?走らないの?」
振り向かずに言うと、彼は私に壁を感じたようにモジモジと申し訳なさそうに言う。
「あ、ええっと。少し話がしたくて……」
「私にはないわ」
「そ、相談に乗って欲しいんだ」
───まぁ。お礼なんて言っておきながら、本心は話がしたかったのね。用件があるなら最初からそう言えばいいのに。
「なぁに?」
私は不必要に他人と関わりたくないけれど、バッグを失くさずに済んだ感謝もあったからそっと聞き返した。
わざわざ
「僕、今ノシロンと手合いしてるんだ」
「知ってるわ」
私は横に並んで歩き始めた彼の
「僕、みんなと一緒に国を
「どうして私に聞くの?」
「カシミールが一番すごいって」
そこまで言って彼は言葉を
───カッコ
彼は改めて申し訳なさそうに言った。
「あ、ごめん。カッコさんにはカシミールの邪魔しちゃいけないって
「私のこと、どこまで聞いたの?」
「ノヴォさんの次に
そう言って
───カッコ
───彼も必死なのはわかるわ。でもどうしてそんなに未来を期待するような
私はまるで私と真逆の彼を不思議に思った。
本来他人になんて興味は無いけれど、何故かそこだけが引っかかった。
「走っても何してもノシロンの
「ノヴォ
「カシミールしかいないんだ」
確かにノヴォ
私は少し困ってため息をついた。
「一朝一夕で都合良く身につくような近道なんて、この世界に無いわ」
「でも少しでも知りたいんだ。何かヒントが欲しいんだよ」
そこまで言われると
彼の向ける
人と関わるのは
「無駄な努力は
「そんな……」
彼は少し泣きそうな顔をする。
「意地悪な意味じゃないわ。努力にも方向性があるってことよ」
「方向性?」
「正しい努力と間違った努力よ」
私は、きっとたくさん走ったであろう彼のボロボロになったズボンの裾を見つめた。
「
彼は口を開けてキョトンと私を見上げた。
「瞬時の
「短時間で?」
「そう。素早い
彼は
「す、すごい」
「何が?」
「すごいよ、カシミール。頭いいんだ」
「何もすごくないわ。すごいのは時代を
私は歩きながら静かに返す。
「ううん、正しい
彼は本当にスッキリした顔を見せて
「ありがとう」
と
そして笑いながら「まるでピアナ様みたい」と言われて、私は表情こそ変えなかったけれど一瞬顔を赤らめて困ってしまった。
───やめてよ……。私なんか……、ピアナ姉さんとは大違いよ。
私の横で彼は手を広げて続けた。
「ピアナ様がね、知は自分を知り歩むための
「そう……」
私は少し視線を落とした。
───私なんか、自分のことすらちゃんと知り
「もういいかしら。あとはノヴォ
もういいでしょう?と、私は逃げるように話に区切りをつける。
彼は笑顔のまま「うん」と言って、
「あ、ちょっと」
完全に
「本当にありがとう。後でノヴォさんにも聞いてみる。これ食堂に置いとくね。
そう言ってとても嬉しそうに、
───不思議な子……。
そう思いながら
───こんなに人と話したの、久しぶりかも……。
私は少し乱れたポニーテールを直して、再び家路を歩き始めた。
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