保護者
───で、どうしてこんなことになったのかしら?
私はリヒトと2人、東地区の
スルグレアの街中の
被災地と街を
それを越えるとかつての東地区から南地区にかけては全て立入禁止地区。
吹く風の音、
「カシミール、ごめんね」
「もう2度とワガママ言わないで」
不機嫌に突き放すとリヒトは隣で少しシュンとなった。
孤児院に帰って、リヒトが置いていった野菜を整理している時にピアナ姉さんから呼び出しを受けた。
父様がきっちりと管理していることもあるけれど、ピアナ姉さんは予定外のことはあまりしない。そんな時は大体不測の事態だから。
話を聞いてみれば、リヒトがどうしても今日中にノヴォ
連日の疲れや治療を
ノヴォ兄が明日まで東地区から帰ってこないこと。
それもあって今日のうちにとリヒトが
───きっと姉さんもこの子のワガママに折れたのね。手合いに
私は頼み事をしてきたピアナ姉さんの困った顔を思い出してまた余計にムスッとした。
「皆が迷惑するの。
「はい」
「離れないでついてきて」
力なく返事をするリヒトの前で私は耳を
東地区廃墟の中でも、街近くにまず
街から離れれば離れるほど、ここは
屍人との
私はピオッジアをいつでも放てるように手に持ち、なるべく
「ノヴォさんは、
「着けばわかるわ。静かにしてて」
少し先に煙が見える。ノヴォ兄はあそこだ。
私は先の煙と私達の間に広がる瓦礫の密集地帯に目を
───もしも出てくるとしたら、この辺り……。
少し
───ほら来た……。
瓦礫の山から
1、2、3、4、5、6人。
それは私達を囲むように一斉に襲い掛かってきた。
───甘い……。遅いわ……。
私は瞬時にピオッジアの引き金を引く。
右前に3発。左前に2発。左後方の死角に脇越しから1発。
ピオッジアの6回の
もう1人
私の左脇から伸びたピオッジアに驚いて耳を
「す、すごい」
「早く立って。走るわよ。銃声で他のが寄ってくる」
私は手を差し伸ばして彼を立たせると周りへの注意を
「カ、カシミールはいつも銃で戦うんだ。
私の後を
「そうよ」
「そ、そういうのって
「そんなもの邪魔なだけよ。もう黙って走って」
右前の壊れた壁の影からまた1人屍人が白い髪を
ノヴォ兄がいつも頑張ってくれてるけれど、やっぱり東地区にはまだまだ残っている。
私は後ろで息を吐くリヒトをチラッと見た。
───いくら地下に隠れていたとはいえ、よくこんな所で3年も生き永らえたものだわ……。
私は走りながらポケットから取り出した布切れを彼に差し出した。
「そろそろこれで口を
彼はキョトンとした顔でそれを受けとる。
「え?どうして?
「着けばわかるわ」
私も同じものをもう一つ取り出すと、走りながら口元に巻いた。
煙の位置からして、ノヴォ兄は旧フロレアの一番手前の広場にいるはずだ。
私は手と脚に力をこめて先へと急いだ。
幸い、それから屍人に遭うことはなく比較的早くノヴォ
壊れた街並に囲まれた広場は開けていて、その真ん中で大きく立ち上る炎が放つ臭いにリヒトが顔をしかめる。
「すごい臭い……」
彼は口元を押さえながら私の後ろで噎せかえった。
「おやまぁ、遠くで銃声が聞こえたと思ったら」
そんな私達に気付いて、炎から少し離れた瓦礫の上で腰かけるノヴォ兄は柔らかく微笑んでいた。
私は軽く瓦礫を跳ねてノヴォ
「ご迷惑な仔犬ちゃんがお話ですって」
ノヴォ兄は思わず苦笑いを
「リヒト、ダメじゃないか。当主と約束しただろう?」
「ごめんなさい。1日も無駄にしたくなくて。ノヴォさんの話が聞きたいんです」
「やれやれ。ここでは何だから少し離れよう」
ノヴォ兄はそう言ってゆっくり立ち上がると、真っ黒いズボンの
「屍人は?」
「7人……」
彼は私の顔を見てまた微笑み、静かに言った。
「ご立腹だね。悪いねカシミール」
「銃弾が
「私からも謝るよ」
ペコリと
ノヴォ兄は少し離れた建物を指差して私達を引き連れた。
リヒトは後に続きながら炎を振り返る。
「ノヴォさん、あれは?すごい臭い」
「屍人達だよ。ちょくちょく東へ来ては
リヒトは黙って歩きながら、しばらく炎を見つめていた。
まだ夕方前だけど、冬の空は早めの
炎はその空へ向かってどこか悲しげに立ち上っていた。
ノヴォ兄が指定したのは屍人の襲来の心配の無さそうな、所々壊されてはいるけれどまだ完全に崩壊していない建物の開けた屋上だった
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