頑固者
当主がそこでようやく終了の合図をすると、カッコのババァが泣きそうな
「リヒト!」
リヒトを任せると
その後ろ姿を見つめて、俺は不満をぶつけるように当主を
「どういうつもりだよ」
当主は静かな佇まいのまま、やっと俺に視線を向けた。
「最初はただの出来試合かと思ってたけど、これじゃまるで公開処刑じゃねぇか」
俺は手に残った嫌な感触を打ち消すように鞭を強く握った。
「何故、出来試合だと?」
「アイツはガリヤに
当主は少し驚いた顔を見せる。
「知っていたのか……。しかし大きな誤解だ。子どもを戦地に行かせたい親なんているものか。ここまでしなくてはあの子の気持ちは折れないよ」
「そうは言ってもよ……」
俺は気分の悪さが後ろめたさに変わって頭を
───やりすぎだぜ……。
「お前達の
わかってはいるが受かる訳がない。
鬼だ……。初めてのガキにあそこまで……。
「それよりもあとひと月ある。思ったより目が良いな。ノシロン、油断はするなよ」
俺は目を見開いた。
当主は相変わらずよく見てやがる。そうだ、最後はフラフラだったが途中のアイツは、俺の
偶然かとも思ったが確かに追ったんだ。ほんの一瞬だが。
長い間地下暮らししてた割には良い目してやがる。俺は手合いの途中に確かに驚いた。
しかし……。
「アイツはもう来ねぇよ。今日の見ただろ?」
「どうかな?一緒にいてリヒトの頑固さを一番知っているのはお前だろう?」
───まさか。
確かにアイツは頑固でマイペースで気に
「それと……」
当主は皇服をヒラリと揺らしながら2人の後を追い、俺とすれ違い様に肩をポンと叩いた。
「腕を上げたな、ノシロン。器用になった」
───……!
───気付いていたのかよ。
俺はしばらく立ち
その日、リヒトは医療院で治療したままそっちに泊まりで休ませることにしたそうだ。
久しぶりに1人で横になる静かな静かな部屋は、あれだけ望んでいたものだったにも関わらず、俺はなかなか寝付けなかった。
翌日──。
いつもなら走ってさえいれば気持ちは切り替わるのに、その日は朝から気分が晴れずに何もする気が起こらなかった。
当主の授業も受ける気になれず、半日ベッドで
「あら?ノシロン」
開けた瞬間、治療室独特の薬品の匂いが鼻をつく。そこではカッコのババァがベッドのシーツを直しながら、俺の方を振り向いて少し驚いた顔を見せた。
「珍しいじゃない。あなたが自分から他人に関わろうとするなんて、様子見にきてくれたんでしょ?」
「別に……」
俺はポケットに手を突っ込んだまま答えた。
「怒らねぇのかよ?」
「あなたが悪い訳じゃないじゃない。それに
カッコのババァは直しているシーツに目を戻すと少し沈んだ声で言った。
「それに右手が無傷で良かった。もしかしてわからないように
───そりゃあ、
「まぁ……な。でも当主は気付いてたよ」
「ウソ!」
驚くババァを尻目に俺は部屋を見渡した。
「アイツは?」
部屋のどこにもリヒトの奴がいない。
───
「もうどうなっても知らないわ!男の子ってみんな馬鹿なの?勝手にしなさいっての!」
「ああん?」
それから、
鞭を手にしてから慌てて2人で当主の屋敷へ向かう。
話ではあちこち内出血して顔もボコボコだったらしい。
───何考えてんだよアイツ。
屋敷の庭に行くと、昨日と同じように椅子に座る当主の前でリヒトは立っていた。
腫れ上がった
「ノシロン、遅いよ……」
一丁前に偉そうにぬかしやがる。17時は少し過ぎていた。
よく動けたもんだ。
あれだけ
「リヒト!本当に
隣で何度も言ったであろう言葉でカッコのババァが忠告する。俺は黙ってリヒトを
───少し見直したぜ。そこまでかよ、お前の決意とやらは。お前の腹の底にある覚悟がどんな
───言っちゃ何だがオドオドしてた昨日と違っていい
俺は鞭をしならせて当主に言った。
「いいんだな?もう知らねぇぜ。でも当主じゃなく医師として一つ答えてくれ。今日はどこまでやる?」
当主は片手で
「20分だ。リヒト、鞭をよく見て考えること……無駄に突っ込むな」
「はい!」
リヒトが
「ピアナ様!」
「上等!」
その横で俺は叫んで鞭を振るい始めた。
「副看護師長、医者と本人がそう言ってんだ。どいてな」
「
「……いらない」
リヒトは
「リヒト、お前のことは大っ嫌いだが一つだけ認めてやるぜ。これから何回でも付き合って俺の鞭を見せてやる。存分にかかって来い!」
「うんっ!」
リヒトはしばらく鞭を
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