禁句
───ああ……何すっかな。
予定外に空いた時間に途方に暮れてぶらぶらと歩き回った。
何も思い付かない。
屋根上でのんびりしてもいいが、後でまたリヒトの野郎が来たら余計苛立つだけだろう。
とりあえず当てもなく、適当なことを考えながら裏の丘に
普段はガキ共がよく遊んでいる、花がたくさん咲いてる小高い丘だが、冬が近づいてきて花もなく所々緑も
真ん中に
───誰もいねぇな、あの木で時間
そう思って木に近づいた俺は一つ異変に気付く。
───ん、誰かいねぇか?……チッ、先客か。
木の裏に一瞬人影が見えて俺は引き返そうとしたが、その先客に気付かれてしまった。
そして木の
「んあ?何何ー?ノシロンじゃない。あんたまた授業抜けてきたの?」
───っざけんなよ。よりによってカッコのババァじゃねえか。マジで今日は厄日だ。見たくねえ顔を立て続けに見ちまうとは……。
てか、このババァ仕事サボッてんのか?
「テメェこそ何やってんだよ。副看護師長が仕事サボッてんじゃねぞ!」
「はーい。サボッてませんー。私は朝から仕事消化しまくりですぅ。私ってホンットに出来る女。忙しい中、休憩時間を確保出来るのも実力の内ね」
カッコのババァは手を伸ばしながら
その嫌味な言い方に苛立ったものの言い返せなかった。
確かにこいつは仕事が早いし、こいつがいなけりゃ医療院回らねえってみんな言っている。
それが余計に腹が立つ。
「てか聞いたわよ、ノシロン。あんたリヒトと相部屋な上にピアナ様が出したあの子のテストの相手なんでしょう?ちゃんと仲良くお兄さんしなさいよ!」
───はぁぁ?なんでこいつに偉そうに言われなきゃいけねぇんだよ。
ババァは
何でもズケズケ言ってきやがる。俺が苦手な理由の1つだ。あのクソガキと一緒だ。
俺の気持ちを
「あと絶対受からせるなよ!
なんでノヴォ兄はこんなんと付き合っているのだろう。
ババァは当主とノヴォ兄にだけは気持ち悪い声を出す。
ノヴォ兄は少し抜けているのではないか?人が良すぎて
「っざけんなっ!んなことテメェに偉そうに言われる筋合いねぇよ!」
「あるわよ!万が一あの子が受かって戦いに行っちゃおうが、アンタとの手合いで怪我しようが、どのみち私の仕事が増えるでしょうが!そしたらダーとのデートの時間が減るんだよ!んなことになったら一生許さねぇからな!」
───メチャクチャ自分の都合じゃねぇか……。
俺はひきつった。
「テメェの都合なんか知らねぇよ!こっちはイライラしてんだ!いちいち関わるんじゃねぇよ!」
そこまで言い合ったところでババァは急にニヤリと嫌な笑いを浮かべ始めた。
「ははーん?さてはリヒトと上手くいってねぇな?そんな風になんでもかんでもガミガミしてるから余計に上手くいかないのよ。私達は獣じゃないのよ?少し冷静に対話すればちゃんと上手くいくわよ」
───人の気も知らねぇで上から目線でテメェが好き勝手言うんじゃねえ!偉そうに。しかも急に大人っぽい発言するなよ。それが出来れば苦労しねえっての!俺は誰とも関わりたくねえんだよ。
「アンタ達似てるからねぇ。
ババァは
───はぁぁっ?似てるぅ?っざけんのもいい加減にしろ!俺とあいつのどこが似てるってんだよ!
俺の頭は急激に
「うっせぇよ!ババァ!」
───あ……、やべ……。
思っていてもこれだけは絶対に口に出したらいけねぇ。わかってはいたが勢いで禁断の扉を開いてしまった。
「誰がババァじゃゴルァ!まだピチピチじゃボケェ!ぶっ殺すぞクソガキィ!」
「か、看護師が殺すとか言ってんじゃねえよ!」
俺は一目散に逃げ出した。
カッコのババァはこうなったらもう収まりがつかねぇ。
──ババァ……。
この言葉だけは言ってはいけない……。
俺がここに来て最初に覚えたことの1つだったが、つい言っちまった。
「ムキーッ!」と
これ以上はもう
「ノヴォ兄はやっぱすげぇよ……」
俺は走りながら空に向かって小さく
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