アリア孤児院


医療院の一室。

部屋の木々に染み込んだ嗅ぎ慣れた薬品と消毒液の匂い。私はその中で黙々もくもくと業務をこなす。


こなすと言ってもイータとカッコのおかげで驚く程に仕事はスムーズだ。

診察しながら2人の仕事の手際の良さを犇々ひしひしと感じる。


看護師長のイータにはラキムという看護師見習いの娘がいる。

カッコと同じくらいの背丈せたけだが、その身体はカッコの倍はあろうかというくらい大きく太っていて、カッコにあれやこれやと叫ばれながらドタバタと仕事に追われていた。


これだけの仕事をこなしてくれている彼女達には本当に頭が下がる。

何よりカッコの元気なこと。

管理に忙しいイータに代わって実質彼女が1人で現場をまとめているようなものだ。


───昨日私と変わらぬペースで飲んではいなかったか?


本当に酒に強いが、あの華奢きゃしゃな体では心配にもなる。今度カッコの体調もてあげなくてはいけない。


医療院の慌ただしい日常が淡々たんたんと進む中で、気がつけば手元のカルテは最後の1枚になっていた。

私はその1枚を見て少し目を細める。


リヒト・トゥールビオネ……。


カルテに書かれた名前を見てさまカッコを呼び出した。


「はい」と元気良く返事をして医務室に入ってきたカッコに、診察をかねて彼に孤児院を案内しながら話をするむねを伝えると、間もなく連れてきてくれた。

ペコリと挨拶をする彼は大人しく素直だった。


───カッコの聖典投げが効いているのかね……。


私の話もある程度は聞いているのだろうか、聞き分け良く診察はすんなりと進む。

右手の傷の経過は順調のようだ。彼の場合、傷云々うんぬんよりも対話の方が大事なのだろうが。


傷口を観察しながら彼にルワカナのことを話した。

とうげを越えたがまだまだ継続した治療が必要なこと。そのため設備の整っている離れた院で静養せいようさせていて当分寝たきりで動かせないこと。


最後に、現時点ではひとまず安心していいむねを伝えると、どこかほっとした顔を見せて頭を下げた。



一通りの話と診察を終えて、私はカッコ達が用意してくれた今日の分の注射を彼に打ってから孤児院へと連れ出す。


すぐ隣にある孤児院も、礼拝堂とこの医療院と同じようにいし煉瓦れんが作りだが不思議な暖かみがある。

子ども達の笑顔があるから余計にそう思うのかもしれない。


途中、孤児院の中でも歳の小さい子ども達が庭で遊んでいるのを見かけて私は目を細めた。


マリーとピエタはそっくりさん

声も姿もうり二つ

猫さん匂いでわかるかな?

椅子に座ったの、だぁーれ?


1人がしゃがんで目を隠し、近くの椅子とその子の周りを囲んで、他の子達が歌いながら手をつないで周っている。


───マリーさん遊びか……。


「ピアナ様だ」


途中、こちらに気がついてみな遊びを止めて駆け寄ってくる。その中にはカッコの息子、レノンの姿も見えた。


「おはようございます」

「当主様、授業はいつするの?」

「今度ピアナ様と裏の花畑で遊びたい」

「お兄ちゃん、だあれ?新しいお友達?」


あっという間に囲まれて、私は1人1人に語りかけた。

頭をで、今度ゆっくりお勉強やお遊びをしようと話をし、最後にリヒトのことを

「新しい家族だよ。みな仲良く」

と紹介してから、孤児院の中へと彼をまねき入れた。





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