驚愕
私は淡々と報告を始める。
「はい。申し遅れてすみません。2人は東地区の生き残りです」
私の言葉に皆ざわついた。カシミールですら驚いた顔を見せた。
「マジかよ!生き残りなんていたのか?」
「ダー、聞いてないわよ!」
ホセとカッコは
「よく今まで
「ずっと地下で隠れて暮らしていたみたいなんだよ。彼らは
「地下?地下には
「
私は立ち上がり頭を下げて、2人の怪我を
「私がついていながら、申し訳ありません」
「何を言う。ノヴォがいなければ2人の命はなかったじゃないか。連日ご苦労だったよ」
カッコが作り直したグラスを置いた。当主は「ありがとう」と言って軽く一口飲んでため息をついた。
「まさか東に生き残りがいたなんてね。明らかに血霧の
当主のその言葉にカッコはまた少し涙目になったが
「長く長くは寝たきりになるだろう。顔に
と、頭をポンと
「いえ、むしろもう1人、彼の方が問題です」
私の言葉にカッコは首を
「どうして?右手の傷は経過も順調よ?」
「その傷なんだ。彼は自分で刺したんだよ」
「はぁ?」
ホセとカッコが大きく声を揃える。
「何故そんなことを?」
当主は落ち着いた口調を変えずに言った。
私はワインの色を眺めながら、あの日のリヒトを思い出していた。同時に災いの日のことも。
ワインの中に、あの日の街が見えた気がした。
「毎日が想像を絶する地獄だったはず。それでも
私は少しワインを口に運んでから「おそらく……」と続けた。
「唯一残った大切な存在を傷つけられて、例えラズリの教えに
一瞬、皆
私達にとっても、あの日は消えることのない悪夢なのだから。
「わかるわ……。その気持ち」
その
「で、どうするのよ。まさか『編成に組み込んで連れてくー』なんて言わないでしょうね?いくらダーでも私そんなの許さない。怒るわよ」
カッコはここに来てから初めて私に向けて怒った顔を見せる。
「まさか。皆私達の家族だ。子どもに罪を背負わせたい親なんていない。それに彼はまだ何も知らない。ただ純粋に故郷を取り戻したいと、国を想っているだけだ」
「仔犬ちゃん……か」
ビールを注ぎ終えたホセが隣で脚を組みながら椅子にふんぞり返って言い、カッコは当主の顔をチラリと覗いた。
全てを決めるのは当主だ。私にあるのは全てを報告する義務と命を懸ける
「ただ気になることが一つ」
私は当主を真っ直ぐ見つめて言った。
「彼は家族同然の友を傷つけられ怒りに任せ屍人と取っ組み合っています。血霧にもまみれている。なのに何故か全く平気でいる」
「な……」
「ウソよ……」
ホセが姿勢を崩し、カッコが声をあげ、当主とカシミールは目を見開き、部屋は今日一番の驚いた空気に満たされた。
「まことか?見間違いではないのか?」
「断じて見間違いでは……。私も
皆信じられない顔で固まってしまった。
それは常識としてあり得ないことである。
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