和平の種
いくら記憶を
父は人としての道徳に溢れた温厚な人であった。
温厚な中にも確固たる信念があり、心の底から尊敬し
4年に一度行われる
当然、我等フォーマルハウト家に尽くしてくれていたセリオの父上……ラカユ家当主のファレトさんの尽力も忘れてはならない。
そしてもう一つ、ルカとシロンの父親であった当時のアリオス家当主が選任辞退を申し入れたことも大きな理由であった。
クラウディアとの国境付近に在るガリヤ自治区内サルトラン一帯を治めるアリオス家は、
国境近くを縄張とする
当然、
この時の父とファレトさんが
父はこの時、いつもに増して
「この機を
「しかし当主、クラウディア
口につけた杯をテーブルに置いて
「普段から当主など、むず
「フィーサ。理想だけでは国は動かぬぞ」
「父上、私も同感です。クラウディア筆頭に鷹派のルルゴアが座す以上、和平など夢のまた夢。今は
ファレトさんに続き、思わず横槍を入れた私に父は笑った。
「ノヴォ、言うようになった。
私とファレトさんは丸くした目を見合わせた。
「そんなこと、あるはずが無かろうて」
「あり得ません。今まで一度たりともその様な……」
父は一口の酒を飲み、
「クラウディアが成立し、おおよそ200年。聖女は再来した。近しい内にあちらの四当主筆頭も変わるぞ?
一瞬、私もファレトさんも話を理解しかねたが、『姉妹』『じゃじゃ馬』という言葉に揃って驚きの声を上げた。
「まさか父上……、スルグレア当主のリアトリス殿のことを言っておいでですか?」
「
ファレトさんは呆れたように頭を抱え、天を仰いだ。
「フィーサ、全く……。私にまで内緒で。勝手な真似は
父は高らかに笑う。
私達にすら内密にしていた外交を詫びると、
「弱腰のビルオレア当主や
「普段大人しく見える奴ほど、急に何を言い出すかわからんものだ。理想を求めるあまり
ファレトさんは「やれやれ」と目を閉じて溜め息をつく。
父は、自らの言葉に浮かぶ自信の正体を掴めずに困惑する私達を見て、満足そうにほくそ笑みながら酒を飲み干していた。
それから
国境を隣接するスルグレアと穏健派は、
和平に向けた建設的な外交会談が行われるなど、この時が初めてであった。
「ひょろっこそうな跡取りだなぁ……」
「噂に
会談前に
父に帯同した私とファレトさんは、初めてリアトリス殿を
父が聖女の再来と呼ぶに納得の美しさではあったが、それは同時に
ところが会談を進めるうちに、礼儀正しくおしとやかな彼女の中に潜む強き信念を
むしろピアナ殿の方が可愛く見える程に、彼女は頑固で
「両国の未来のためにも、必ずやクラウディア
「ホントにルルゴア落とせんのかぁ?」
「墓穴ばかり掘るピアナが足を引っ張らなきゃね?」
「うちがいねぇとリア姉は話が飛びすぎるじゃねぇか!」
「飛ばなきゃ鷹に手は届かないわ?」
姉妹喧嘩とこちらの苦笑いで幕を閉じた会談ではあったが、周りを巻き込み全てを味方にしてしまいそうな2人に、誰もが「この姉妹ならもしや」と思わされたものだ。
会談を終えての帰路の途中で、ファレトさんが呟いた言葉が忘れられない。
私は思わず吹き出してしまった。
「フィーサが
ここから、和平調印に向けての歩みが動き始めた。
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