Vendetta
左の
神は
(歌劇 ヴェンデッタ 第1幕より)
スルグレア当主の職務は多忙を極める。
まだほんの幼い頃、珍しく
3階テラス席にある
演目は『ヴェンデッタ』。
村娘のヴェンデッタは、他人の清き心を
外れにひっそりと暮らす魔女は、反して他人を
ある日、ヴェンデッタは
呪いを受けたヴェンデッタの
旅の途中、数々の
時には
長い旅路の果てにようやく魔女の元へ辿り着いたものの、
『申し訳なかった。
身振り手振りでヴェンデッタに謝意を示し、涙を流しながら
『そんなことでは済むものか!』
怒りのナイフを振り
そこで彼女は初めて気付く。
ふと左の
『我が身には右の
ヴェンデッタはこの旅路を
2人の姿を見届けた神は、
───ヴェンデッタ……。うう……、ヴェンデッタ。
初めて目にした歌劇の迫力も
厳格な
「ぶぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!ヴェェェンデェェェッタァァァッ!」
隣でリア姉さんが目に両手を押しあてて、噴水のように涙を
「ヴェェンデェェッタァァァッ!がんばっだねぇぇぇっ!魔女ざんもぉぉぉっ!感動でずぅぅぅっ!うづぐじいよぉぉぉっ!ずんばらじいよぉぉぉっ!」
観客達は今日の
「ちょっ!リア姉!……おい!カーテン!カーテン締めろ!」
「ぶぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!」
ピアナ姉さんが慌てふためいて、父様と2人で急いでカーテンを締める。
リア姉さんは絹のように透き通った光を放つ、美しく長い長いブロンドを振り乱しながら、
観客達の温かい笑い声が、カーテン越しに部屋まで届いていた。
「てへっ。失敬失敬」
「『てへっ』じゃねぇよ。場所と立場を
帰りの馬車内で舌を出して自分の頭を
しばらくの間、
「カシミールは偉いな。ちゃんと
ピアナ姉さんに褒められて嬉しかったけれど、さらに小さくなったリア姉さんに何か助け舟を出したくて、私は
「と、とても楽しかったです!リ、リアトリスお姉様も、かんどおするのは当然…です!……す、すてきなお話でしゅた!あのお話の…しゅ、しゅだいはなんですか!?」
2人は目を丸くした。
それからピアナ姉さんは大笑いをして、リア姉さんは喜びに目を輝かせて小さくした体を元に戻した。
「あっはっはっ!
「まぁ!カシミールはお
私は
「早く早く」
「リ……、リアお姉~ちゃん……?」
「はぁぁぁん……!可愛い可愛いカシミール……。な・あ・に?」
「
ピアナ姉さんに
「これから大仕事があるんだから……。休みだからって浮かれるのも程々にしねぇと……」
「むぅ……。それはそうだけど……。久しぶりのお休みなんだもん。たまにはいいじゃない。せっかくカシミールとお出かけ出来たのに」
「ま、それはそうだけど……。
「ま……!
それからしばらく眺めていた2人の言い合いは、口喧嘩というよりも全てを分かち合った仲良しの
私が笑ったことに気づいたリア姉さんは話を止めると、思い出したかのように私に向き直って微笑みながら言った。
「ねぇ、カシミール?……あのお話の主題はね?心は伝わるということなのよ?」
「こころ……?」
リア姉さんがこの時話してくれたことを、私は今でもよく憶えている。
「そう。心……、人の気持ちよ?私達が
「うん……。あ……、はい!」
「人には必ず
幼い私には目から
リア姉さんの話を聞いて、歌劇場で自身に降り注いだ得体の知れない感動の正体が少しわかった気がした。
同時に、リア姉さんが誰からも
「理想論だよ」
「あら?私はきっと果たしてみせるわ?」
再び言い合いを始めたピアナ姉さんとリア姉さんの前で「私も2人みたいに素敵な女性になりたい」と、私は頬を赤らめて温かい気持ちに包まれていた。
あの頃は、こんな日々が永遠に続くものだと、信じて止まなかった。
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