Art
周囲に気を配りながら、私は比較的
この辺りは災いの日に
幸か不幸か……。今となっては見晴らしの良くなったことで、穏健派の人々の見落としは無く思えた。
高台に立って振り返る。
───さすがベネディ……。ピオッジアを構えると人が変わる。また腕を上げたみたいね……。ごめんなさい、
続けて、脅迫されて無理矢理連れてこられたガリヤの人々を想い、胸を締め付けられるような痛みを覚えた。
───あるいはリヒトなら……。……いいえ、きっと間に合わない。今はこうするしか手立てが無い。
(ごめんなさい……)と、小さく
すかさずピオッジアの
「お!
指二本で
ナイフを受け止めて軽く血を流した指の向こうに視点を移す。片脇に板を挟んだシロンがいつもの嫌な笑みを浮かべながら立っていた。
───油断した……。
少し冷や汗をかいた。手投げ弾や接近での不意打ちなら危なかったかもしれない。
私は動揺を悟られないよう気を引き締め直した。
「あなたなんかに会いたい訳無いじゃない。それに背後からナイフなんて……、相変わらず礼儀知らずな人ね……。キモいわ……」
「まぁ、そう言うなよ。挨拶代わりじゃん?どうせ防ぐと思ってたしさぁ……。あのさ、あのさ!それよりも今回は見せたい物があんだよ!」
対峙しても
シロンは2手目の攻撃を仕掛ける様子も無く、浮かれながら、持っていた板から布地を払い取ってこちらへ掲げて見せる。
現れたのは1枚の絵画だった。
私は見た瞬間から、余りある嫌悪感と怒りを覚え
そこに描かれていたのは、荒廃したこの地区で
私は大袈裟にか弱げな乙女に描かれ、シロンはまるで自身が神かの
黒と赤を基調にした背景の色使いが
どうやら前回の戦闘をモデルに描いたようだった。
「ひと月丸々掛かったんだぜぇ!超大作だろ?傑作だろ?お前はマジで
私は怒りに震えて、先程投げられたナイフを黙って投げ返す。
見事に絵画の中の自分の顔を突き刺さされたシロンは、
ドンッ……。
続けて間髪入れずにピオッジアの銃弾を撃ち込み、絵画の真ん中を捉えてシロンの手から弾き飛ばした。
「ああ……、ああ……!」
「キモい……。本当に気持ち悪いわ……。ねぇ?死んで?すぐに死んで?お願いだから今日ここで死んで
シロンは目を見開いて震え始める。絵画を破壊された現実を受け入れる程に
「な……、何てことしてくれんだよ……。なぁ?マジでひと月寝不足になりながら描いたんだぜぇ?これだけの傑作は中々出来るもんじゃねぇんだ……。なぁ?お前にわかるかよ?嬢ちゃん……。どうしてくれんだよ、なぁ!……どうしてくれんだっつってんだよ!」
「わかる訳無いじゃない……。それに、別にどうもしないわ?」
「あり得ねえ……、あり得ねえよ!俺の
怒りが理性を消していく代わりに、その両眼が際立って鮮やかな赤を灯し始める。
食い縛った歯からやがて雄叫びを上げると、シロンは両手に手投げ弾を構えた。
───何って、気持ち悪い落書きを処分しただけじゃないの……。本当に一生分かり合えないタイプの人間ね。気持ち悪さと腹立たしさで思わず撃っちゃったけど、結果的に挑発成功だわ……。
「我慢ならねぇ……。今日という今日は許さねぇ。前よりも深い赤に
シロンの
私はスッと息を整えてつま先でステップを踏みながら、今回の作戦を頭の中で
何者も寄せ付けぬ
───ノヴォ兄のいる南地区へ2人を誘導すること。相手に
想定外の始まりだったけれど、運良くルカは南にいるらしいし、私がシロンさえ誘導することが出来ればここで計画が
ただシロンの疾さに私が
それでも挑発に乗りさえすれば、疾さに絶対の自信を持つシロンは怒りに身を任せ、私を
私が思い描く算段は、ピオッジアでの迎撃を繰り返して相手を
「命乞いなんてしないわよ。出来るものならさせてみなさい?下手くそな落書きしか描けない……この、変態」
シロンはブルブルと震えながらお腹に力を込め、前に
───来る……!
私は真上にトーンと高めのステップを踏んだ。
「さぁ……、始めましょう?生死を賭けた鬼ごっこよ!捕まえてご覧なさいな!」
つま先が着地した瞬間、私は奴の面前にピオッジアの一撃を放ち一瞬の足止めをする。射撃の反動を利用して後方に背面宙返りをすると、南方へ向かって真横に駆け出した。
「待てこの
「待つわけ無いでしょう?!」
いつも人を小馬鹿にした態度のシロンがここまで
───やっぱり兄弟ね……。キレたら兄にそっくり。
私は横目でシロンの動きと手投げ弾の軌道を
爆炎を上げて襲いかかる衝撃波に身体が
「ちょこまかと
「その程度?こっちよ!楽しい夜になりそうね!」
「るっせぇっ!」
響き渡る憎悪の爆音と
シロンの白い残像と私のブロンドの影が
息の詰まる
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