戦いと罪の意味



───きょ、今日は本当に散々さんざんな1日だった。


暗くなった部屋で、ベッドに入った僕は深くため息をついた。


あれから2人とも正座でこっぴどく怒られて、その後の食堂当番もてんやわんやだった。

カッコさんは怒りながらも料理を手作ってくれたから、僕はそこだけ嬉しかったけれど。


でも大好きなピアナ様に怒られたシエロは最後まで涙目でしょんぼりしていた。

ずっと下を向いて何かをブツブツ言っていたし、こりゃあ当分立ち直れないだろうと思う。今度何か喜びそうな料理でも作ってやらないといけない。


僕は寝返りをうった。


今日のリヒト兄ちゃん達はすごかった。

あんなのを見てしまったら、僕もたくさん鍛練たんれんして早く大きくなってみんなの力になりたいと、興奮して寝つけそうになかった。


「ねぇ、……兄ちゃん」


「え?」


いじけて寝たと思っていたシエロに声を掛けられて、僕は閉じかけた目をもう一度開いた。


「今日のリヒト兄ちゃん達、すごかったね」


「うん。……すごかったな」


「あそこまで出来るようになるまで、どれだけ辛い鍛練たんれんしたんだろう?」


「そりゃあ、たくさんたくさん。たぁぁくさんだよ、きっと」


僕は兄ちゃん達の鍛練のことを考えて胸がときめいたけれど、シエロの声は何だか悲しそうだった。


「どうして?そんな辛い思いまでして戦うの?」


「そりゃあ、戦わないとみんな平和に暮らせないじゃないか」


───また始まった。シエロの戦い嫌い。


「でもラズリ様の教えでは『命を粗末そまつにしてはいけません』ってあるじゃん。ピアナ様も『ケンカしちゃダメ。みんな仲良く』って言うじゃんか。大人の人達は僕らにはそう言うのに、どうして自分達はケンカするの?」


シエロは徹底てっていして人と争うのが嫌いだ。


「そんなの、あっちが攻めてくるんだから仕方ないだろ?」


「仲直りすればいいじゃんか。僕らだってケンカしても仲直りするのに」


「言っても聞いてくれないから戦ってるんだろ?」


「だからってこっちまで暴力したら、あっちと同じだよ」


シエロの気分が沈んでこうなると長い。

今まで何回かこの話になったことはあったけれど、今日はピアナ様に怒られたショックと、リヒト兄ちゃんが戦場に行っちゃうかもしれないショックで特に落ち込んでるみたいだった。


「同じじゃない。兄ちゃん達は守るために戦ってるんだ。みんなのために、みんなの分まで罪を背負ってくれてんだ」


「それもおかしいよ。ピアナ様だって兄弟で力を合わせて、家族みんな一緒にって教えてくれてるのに。誰かだけが背負うなんて……」


僕は、ピアナ様もカッコさんも兄ちゃん達もみんなみんな大好きだ。もちろんシエロだって大好きなたった1人の弟だ。


シエロも正しいことを言ってると思う。でも、どっちかが間違ってるとも思えない。

僕はどんなにたくさん考えても、シエロを安心させられる答えが出てこなくていつも困ってしまうんだ。


「じゃあ街を壊されてみんな殺されて、好き勝手されてもいいのかよ」


結局こういうことを言ってしまう。

僕はシエロに上手く答えを言ってあげることが出来ない。


───ごめんな、兄ちゃん勉強不足だから。

───こう言うといつもシエロがグズるの、わかってるのに……。


「やだ」


隣のベッドからシエロの泣き声が響いてきた。


───ごめん。また父さんと母さんのこと思い出させちゃったな。


僕らの父さんと母さんは戦争でいなくなっちゃった。ここでピアナ様やたくさんの友達が家族になってくれて寂しさは忘れられるけれど、僕だってふと思い出して泣きそうになってしまう。


でも僕は兄ちゃんだから絶対泣いちゃいけない。

シエロは家族のみんながこれ以上いなくなるのを、僕以上に怖がっている。


「もういなくなるのはやだ」


遊びも勉強も美味しい料理も、どれだけみんなと楽しく過ごしてもシエロの涙はれないでいる。

シエロは争ったり誰かがいなくなることに極端きょくたんに臆病だ。


「シエロは臆病だなぁ。大丈夫だって」


「兄ちゃんもいなくなるのはやだ。リヒト兄ちゃん達だって戦いに行かないでほしいよ」


「絶対いなくならない。兄ちゃんが必ず守ってやる。ずっと一緒だ。他のみんなもずっと一緒だ」


いつもいつも、繰り返しこの言葉しか言えない。上手く答えてあげられない中で、僕がシエロにたった一つ自信を持って言ってやれる言葉はこれしかなかった。


──ずっと一緒だ。


僕はくるまった布団をギュッとつかんだ。言った自分の言葉が強くシエロに伝わるように。気持ちを引き締めるように。


そして、次の双月そうげつ火耀日かようびのことを思った。






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