生き延びた知恵



…………………。


来ると思っていた爆発が一向に起きなくて、僕はちょっとしてから片目を開けた。


───あれ?……爆発……しない?


「あん?」


ルカも怪訝けげんそうな顔を浮かべる。

リヒト兄ちゃんは手投げ弾の底のくぼみに指を突っ込んでジッとルカをにらんでいた。


「僕は3種類だけ爆弾を知ってる。生きていくためにたくさんイジってきたから」


「お前……何した?」


苛立いらだちながらルカはまゆをひそめた。


「これ、火薬は違うけど災いの日に使った爆弾と同じタイプだね?その中でも二番目に古い、ウィルズ1Bだ」


リヒト兄ちゃんは手の中の爆弾を見つめながら言った。


「一番古いウィルズ1Aには致命的欠点があった。起動してから中の雷管らいかんが起爆するまでがものすごく遅いんだ。知らずに投げたら投げ返されてしまう。それに少し無駄に大きかった」


何かを思い出すように、再びルカをにらむ。


「点火を早める改良をしたのがこの1B。でも起爆は少し早まったけど、今度は早めて小さくしたせいで中の信管しんかん雷管らいかんの作りに欠陥があった。外装も安いから下から指でゆがめればもう爆発しない」


そして爆弾を建物の向こうへと投げ捨てた。


「不発爆弾の中でも一番多かったよ!まだ古い爆弾使ってるんだね!」


僕は嗚咽おえつらしながら驚いた。


───リヒト兄ちゃん、今まで一体どんな生活してきたの?……す、すごい……。


同じように驚いた顔をしていたルカは奇妙きみょうな笑い声を上げた。


「グフッ……。クックッ……。おもしれぇ」


そして引き続きやってきたピアナ様の銃弾をサラッと身体をひねってけた。


「おもしれぇなあ!お前はよぉ!お前みてぇな腹立たしい欠陥楽器は初めてだ!その腹立つ顔をゆがくして今までで一番の音を出してみたくなってきたぜ!」


「シエロ、ヒンメルをかかえて今のうちにピアナ様のところまで逃げろ」


叫ぶルカの声にまぎれてリヒト兄ちゃんが小さく言う。


「え?」


「あいつは完全に僕に気が向いてる。僕が相手しているうちに後ろの階段からこっそり逃げろ」


「ダ……メ……だよ」


「兄ちゃん」


その時、兄ちゃんが痛みをこらえてうめきながら言った。


「まだ……、奴の弟がいない。もしノヴォ兄ちゃん達が不意打ふいうち受けたら、大変なことに……」


「ヒンメル……」


リヒト兄ちゃんは横目で後ろの僕らを見る。


「シエロ、僕の代わりに……見つけて」


ヒンメル兄ちゃんの一言に、僕は驚いて慌てふためいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る