両親の記憶
両親のことで最後に覚えているのは、お父さんの大きくて温かい
その日は僕の誕生日だった。
僕の家は、スルグレア区にいくつかある大通りのうちの1つに沿って密集した街中の3階にあった。
街並みの屋根と同じようにオレンジ色に輝く
ただ、その日はお父さんが帰ってきても僕はずっと部屋の隅っこで三角座りで
「もう洗礼泣きは済んだかな?」
お父さんはいつも大きな手でポンと頭を撫でてくれた。
「男の子ですもの。いつまでも泣かないわよね」
お母さんはいつも優しくて笑っていた。
「うん。でもどうしてこんな痛いことするの?」
僕はまだ少しグズりながら右手の甲を見つめていた。
「今日はね、リヒトが一つ大人になった日なんだよ。クラウディアの民は9つの歳になると、
僕の目の高さまで
「これはラズリ様への感謝と、これからずっと教えを守って、正しく一生懸命生きていきますっていう誓いなのよ」
お母さんはお鍋をかき混ぜながら優しく振り返った。
「痛いことしなきゃ大人になれないの?」
まだ少し涙目だったと思う。
そう言うと二人は声に出して笑った。
それでまた余計に恥ずかしくなって、僕は顔を
「そんなことはないよ。この痛さに耐えたなら、この先どんなことがあってもへっちゃらだ」
「でも大変だったのよ?お友達に散々怖がらされたみたいで。あなたがお仕事の間、向かう途中に何回もグズるんですもの」
「お母さん、それ言わないでよ!」
お父さんはもう一度笑いながら僕の頭をクシャッとすると
「これでもうお父さん達と同じだ。お友達のルワカナも去年入れたんだろう?全然痛くなかったって胸を張ってやりなさい」
そう僕の頬を軽く撫でた。
──お父さん達と同じだ。
その言葉で少し嬉しくなって、僕はようやく気持ちが晴れた気がした。
「今日はせっかくのお祝いだ。母さんもいつもより料理頑張ってくれたんだよ?」
お父さんはそう言って立ち上がると窓辺に向かう。少しだけカーテンを開けて外を眺めるその姿を見て、お母さんも料理の手を止めて隣に寄り添い立った。
「あなた、よりによって今日のこの大事な日に……」
「全くだ」
窓の下を見下ろす両親の声は沈んでいた。
耳をすますと、外からは
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