第4話 加護なき少年 (ノシロン)

ノシロン







  わざわざ自分からちてくるんじゃねぇよ…

   お前は俺と違ってまだ綺麗なんだからよ













───ホンットに腹立つことばっかりだ!なんでこうなった!?


あの日からずっと俺は苛立いらだっている。

あのクソガキが来てから鬱陶うっとうしいったらありゃしない。

どこに行ってもまとってきやがる。


───知らねぇっての。ガキのおりしてる暇なんてねぇんだよ。


俺はムシャクシャしながら食堂の扉を開けた。


「あ、ノシロン兄ちゃん。お昼ご飯の時間はまだだよぉ」

「まだだよぉ」


ここの孤児院では1日2人ずつ料理の当番を決めている。まぁ俺は全くもって出来ねぇし、何より面倒くせぇからずっとサボってっけど。


───今日の料理当番はヒンメルとシエロか……。


7歳だったか8歳だったか忘れた。

未だにどっちがどっちか見てくれでは分からないっちゃな双子の兄弟。

確か兄貴のヒンメルが喋って後に続くのが弟のシエロだ。


2人で鍋をき回してるかたわらで、俺はでけぇテーブルに散らばった食材の中から適当にパンとリンゴをつかんだ。


「ノシロン兄ちゃんもいい加減一緒に食べようよぅ。ちゃんと食べなきゃ駄目だよぉ?」

「駄目だよぉ?」


「うっせ。お前ら、新入りのクソガキ来ても俺のこと話すなよ」


俺は静かににらみを効かせて食堂を出るとそのまま孤児院の裏口へ向かった。




───誰もいねぇな……。


辺りを見渡して、孤児院裏の端っこの壁にあるふちの出っ張りを頼りによじ登る。

3階分ある孤児院の三角屋根のてっぺんまで登るとそこそこ高い。その隅っこに煙突がある。その足下周りだけ平たくなってる部分は、俺だけの特等席だ。


俺は仰向けに寝転ぶとパンをかじる。

見上げた空はどこまでも高く、その透き通る青さに吸い込まれそうな感覚を覚えた。


───いい天気だ……。このまま溶けて誰もいねぇとこに行けねぇかな。


この瞬間だけが何も考えずにいられる俺だけの時間だった。

うるさいカッコのババァも家族ごっこのガキ共もいねぇ。

俺が俺でいれる場所。何もない、まっさらになれる場所。


戦いのことも昔のことも全部忘れられる場所……。


部屋もいいけど、なんかむさ苦しい。

圧迫感があるというか、ガキ共の声も聞こえてくるし、何より狭い。


でも最近はその部屋のありがたみも嫌という程思い知っていた。

マジでうぜぇ、あのガキのことだ。


あいつは知らねぇ間に、ベッドは増やすは、俺の荷物は隅っこに追いやるは、挙げ句の果てに机まで勝手に並べやがった!


何でもかんでもズケズケと人の領域に入ってきやがる。生活にも内面にも。

あいつにはプライベートとかデリカシーって言葉がないのか。一体どんな生き方してきたんだ。

クストス牢獄でもここまでのストレスは無かった。


何よりウゼェのがイビキだ。

あいつは絶対人間じゃねぇ。どうやったらあんな獣みたいな音出せるのかわからない。カシミールの銃声よりひどい。おかげで寝不足になっていた。


なんで当主もいきなりこんなこと始めたのか、迷惑以外何ものでもねぇ。

ま、俺には関係ねぇことだが……。

早くその手合いとやらで、ひと月と言わずに1回でボコボコにして追い出してやる。


俺はパンをくわえながらジーッと空を見つめた。


───落ち着け、俺……。あんな奴にイライラしてても時間が勿体ねぇ。この後は当主が教えに来てくれるんだっけ?数学するよな?それだけでも出ねぇとな。トレーニングとこの時間以外でやりてぇこと、それしかねぇもんな。


俺は少し視線を落として、この丘の下に広がる街並みを見つめた。

オレンジの屋根が密集してつらなっている。俺でも流石に綺麗だと思う。

透き通った空の青色の邪魔もせず、むしろ綺麗に寄り添っていた。


───こういうの造った連中も数学とか学んだのかな?じゃなきゃこんな綺麗な街造れねぇもんな。


俺は眺めをおかず代わりにパンを味わった。


───これ食ったら当主来るまで少しだけ昼寝すっかな……。


俺は仰向けでパンをかじりながらしばらくほうけていた。


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