花束を持った少年ー2

 「おとう、さん……?」

 期待の籠もった瞳を向け、少年が正人にそう問いかけた。


 「え、ええ!?」

 正人は驚きの声を上げ、美葉は見開いた目で少年を見つめた。健太も他の三人も、予期せぬこの光景を呆然と見つめる。


 「え、えっと……。」

 正人はしゃがみ込んで、少年の顔を覗き込んだ。やがてその瞳に微かな驚きが浮び、眉がきつく寄せられていく。


 「君の、名前は……?」

 正人が、震える声で問いかけた。


 「木全猛きまたたけるです!」


 正人の長い睫が大きく揺れた。美葉の手から、布巾がポトリと落ちる。


 「木全」その珍しい名字は、正人と同じものだ。


 「お母さんの名前、は……?」

 少年の顔をのぞき込んだまま、不自然に掠れた声で正人が尋ねた。

 「木全アキです!」


 ハキハキした甲高い声を聞き、正人はぎゅっと目を閉じた。猛と名乗った少年はハッと息をつき、ゴソゴソとポケットをまさぐる。持ちきれなくなった花がバラバラと床に落ちていく。真っ直ぐ伸びた茎に凜と咲いた白い花が乱雑に床に散らばる。ポケットから出てきたのは四つに折りたたまれた、新聞の広告だった。


 「お母さんが、渡しなさいって……あ、お花!」

 猛は紙片を正人の手に押しつけて、先ほど自分が落とした花を拾い始めた。


 正人は紙片を広げる。その手が、ブルブルと震えていた。二、三秒紙片に目を落としていたが、ぐしゃりと握りしめて、駆け出した。美葉のあ、という小さな声と同時に健太が正人の腕を掴む。引き留められた正人の身体が、ガクンと大きく揺れた。


 「どこ行く?何しに?一体何が?」

 要領を得ない問いかけに、正人は青ざめた顔を向けた。


 「アキが死んでしまう……。」


 その唇が、わなわなと震えていた。その物騒な答えに、心臓がぞっと音を立てた。


 「……アキ?アキって、誰だ?知り合いなのか?」

 正人は小さく頷いた。


 「結婚していた人……。」


 「え!?」


 想定外の答えに頭がフリーズした。正人を留めていた手の力も抜ける。正人がその手を振り払い、走り出す。陽汰が視線を絡めてからたっと走り出した。


 「錬!」

 走り出そうとした錬に佳音は声を掛け、ハスラーの鍵を投げた。錬はピンク色のポンポンチャームの付いた鍵を受け取って一つ頷いた後、佳音の後方を指さす。


 「佳音、美葉を頼むな。」

 錬の指の先には、青ざめた美葉が立っていた。


 「美葉、大丈夫だ。心配すんな。」

 根拠のない言葉を投げてから、健太も駆け出した。

 

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