第17話 【必見】人を動かす6つの要素

 日曜日に行われた海野晴斗の自転車練習兼ピクニックは、天候にも恵まれ、大成功だった。


 「よき師」と出会い、自分に合うように育てる。それが自らのモチベーションをも高め、維持する力になっていく。

 ポケモンを育てるのなら経験はあるが、「師を育てる」という発想は、七海にも、志桜里にも、無かった。勉強になった。そして晴斗がずっと苦手にしていた自転車を克服できたことは、七海や志桜里にとっても、受験に向かう大きな励みとなった。


 その日の夜、七海はLINEで参加者にお礼のメッセージを送った。皆さんの応援のおかげで、晴斗が自転車に乗れるようになったことへの感謝と、貴重な休日の時間をありがとうございました、という言葉を伝えた。


 ただ、まめじぃに対してだけは、もうひとつ、メッセージを付け加えた。それは、モチベーションに関することだった。


―――まめじぃ、授業でも「モチベーション」の話、もっと聞かせて~(^^♪よろしく!


 すると、少し経ってから、とんでもない長文のメッセージが返ってきた。


―――今日はありがとうございました。晴斗くん、おめでとう。私も久しぶりに胸が熱くなりました。強く想い出に残る一日となりました。ところで、モチベーションの授業をご希望という事で、ここでやってしまおうと思います。モチベーションの課題とは、要するに、どうやって「やる気」になるための脳内ホルモンをうまく分泌させ続けるか、という事に尽きるのですが、実はこんなことがわかっています。それは「人を動かす要素は6つしかない」ということです。


「ああー始まってしまったー」


 七海はため息をついた。


 まめじぃのLINEの返事は2種類ある。ひとつは、やたら改行してくるパターン。これはスマートフォンから返信している。スマホだと、短い文をやたら改行しまくるし、絵文字も多用してくる。もしくは、絵文字ひとつだけで済ませようとするときもある。


 ところが、パソコンからの返信の場合、たいてい、長文になる。改行が、無い。文字の洪水が襲いかかってくる。読む側の読みにくさも考えずに、長い文章を平気でびっしりと書き込んでくる。


 まめじぃが言うには、パソコンのタイピングが得意すぎて、文字を打ち出すと改行さえ忘れて指が自動的に動き出して止まらないらしい。止まらない、は盛りすぎだと思う。


 思考の速さとタイピングの速度はほぼ同じで、会話するより早いと豪語していたが、それも盛りすぎだと思う。

 

 年齢を重ねるごとに、話がモリモリに盛り過ぎるようになるのは、洋の東西を問わず、古代から批判の的となっている。まさか、まめじぃもそういう「老害」に片足を突っ込み始めたことは、自覚していないだろう。


 段落の無い、読むのも辛い文章が続く。段落や改行の重要性が本当によくわかる。


―――繰り返します。人を動かす要素は、6つしかないのです。それは(1)安定感(2)変化(不安定感)(3)重要感(4)つながり(5)成長(6)貢献、以上6つです。(1)から順にみていきましょう。「(1)安定感」とは、「安心感」もここに入るのですが、就職する際に年収や勤務時間、業界の動向や就職先の詳しい情報を得ようとするのは、安心したいからですし、安定した生活を手に入れたいからですね。だから就活生は情報収集に一生懸命になるわけです。自分の人生がかかっているわけですからね。ところが人間とは矛盾した生きもので「(2)変化(不安定感)」に対しても、高い意欲を示します。例えば、ジェットコースターが好きな人は、木製の、必要以上にグラグラ・ギシギシと軋む木製コースターに夢中になる傾向があります。不安定だからこそ、刺激がより増すわけですね。そこが「アツい」と気持ちが昂るわけです。「(3)重要感」。これは自分は価値がある存在だと周囲から見てもらいたい欲求ともつながります。それを踏まえて「(4)つながり」。ニンゲンという種族は社会性の動物ですから、集団行動の中で「つながり」を欲します。それは自然な欲求なんですね。偉大な作家が、まるで自分一人の力で作品を書きあげたかのような顔をしていますが、実はいろんな人々の協力や影響や、つながりなしには、その作品が一人ひとりのもとに届けられることはありません。「(5)成長」に関しては、やはりヒトは、自分の成長を望む生きもので、一度は自分の成長をあきらめた人でも、可能性の種が見つかれば、モチベーションは自然と高まるようなしくみに、脳は、なっています。また『少年ジャンプ』が売れるのも、やはり登場人物たちの成長があるからですよね。主人公が毎週、肩こり腰痛が次第にひどくなり、老け衰えていくワンピース、なんて誰も見たくないですもんね。「(6)貢献」は、じぶんの行動が、何かに貢献できると理解することで、動くことができる、ということなんです。ゲームのチームプレイで盛り上がるのも、この要素が働いているからなんですね。このように見ていくと、人を動かす6つの要素をちゃんと頭に入れておいて、それに基づいて学習計画や学習方法を選択していくことが大事なんですね。人気の課金ゲームは、この6つの要素をうまく取り入れていますね。人を夢中にさせる仕掛けが、科学的に分析され、実践されているのですね。だからゲーム依存になりやすいのは当然のことなんです。その仕組みを理解して勉強に取り入れることはとてもよいことだと私は考えてううまあう―――


 あっ、寝落ちしたな、と七海は理解した。


 まめじぃは、お酒を飲んで酔っ払うと、どこにいても、何をやっていても、すぐに寝てしまう。きっと、お酒を飲んだ後で返信しているから、今頃きっと、キーボードを枕に、うたた寝しているんだろうな、と想像した。最後の「ううまあう」が、それを物語っていた。きっと、顔面で打ち込んだに違いない。ああよかった。やっと終わった。


 こんな読みにくい文をいつまでも読んでいられない。


 さすがにこれは、ひなさんも、まさぽんたさんも、読み飛ばさざるを得ないだろう。ナトリさんも、文さんだって、いくら何でも、読むに読めないだろう。筆者さえ推敲をせず飛ばしてしまっているのだから。

 

 お酒を飲んでLINEをすると、本当にこうなるのだから、自省しなければいけない。しかしお酒を飲んでいるときの方が、本音で話せたり、素の自分が出たりするので、一長一短である。


  まめじぃの話をまとめると、こうだ。


(1)安定感

(2)変化(不安定感)

(3)重要感

(4)つながり

(5)成長

(6)貢献


 ヒトと呼ばれる動物が、やる気を出す「もと」になっているのは、この6つだけである。


 これは、アメリカの、アンソニー・ロビンズという研究者が長い時間をかけて科学的に研究し、導き出した結果だという。私たちの「やる気のもと」は、表面的には多様であるように見えて、突き詰めていけば、6つに分類されるということだった。


 そう考えると、世の中でヒットしている作品、映画や漫画、音楽、そして小説、これらもきっと、この6つの要素が絶妙にブレンドされて、ひとつの作品となっているのだろう。「人を動かす」とは、心を動かすことでもあるし、財布のひもを緩めるというのも行動であるのだから。


 結局、モチベーションとは何かというと、やる気の「もと」になるものだった。なんだ、ひとことで語れるじゃんか。誰だ、本が一冊書けると言っていたのは。


 「やる気」の正体は、脳内ホルモンだった。脳から出る分泌物が、やる気。その分泌物がどんな場合に放出されるかを、生涯をかけて研究しているプロたちが――特にアメリカに多い――長い年月を積み重ねて生み出した、現時点での結論が、「6つの要素」だった。


 勉強だけに限らない。何かをやるぞと決めたはいいものの、イマイチ気持ちが乗らないときがある。


 多くの場合、睡眠不足など、心身の不調からくる場合が多い。しかし、ぐっすり寝て、気力・体力も回復しているはずなのに、何故かやる気が減退してしまった・・・と感じたならば、「6つの要素」を想い出して頂きたい。どこをどんなふうに刺激すればよいかは、人によって違うので、ミックス・ブレンドして、自分の中のベストを探っていくのが吉、である


 これまでも、KPT法や、参拝のススメ、「よき師」と出会い育てる話など、いくつか手法を紹介させて頂いたが、それらも結局は、今回紹介させて頂いた「6つの要素」が大きく関係していた。


 しかし「〇〇法」と呼ばれるものは、あくまでも「型」に過ぎない。もちろん「型」は大切だけれども、それをどう使いこなし、自分のものにしていくかが、最も大切なことである。


 そしてまた、筆者はこれが小説であるということを、忘れてしまっていた。


 こうして、7話続いたモチベーション回は、いったん、幕を閉じる。


つづく


※この物語はハーフフィクションです。


―――ヴーン・ヴーン・ヴーン


ポチ。


「はい。志道です。七海さん、どうしましたか?」


「ちょっと!まめじぃ!お話どうなってるのよ?」


「何がです?」


「私が主人公の小説を書くんじゃなかったの?」


「そうですが」


「私、全然、活躍してないじゃんか!」


「それもそうですね」


「そうですねじゃないわよ!主人公は誰なのか、言ってみなさい!」


「・・・七海さんです」


「だったら!私をもっとバーン!と全面に活躍させなさいよ!」


「・・・わかりました。では来週から、海野七海・過去編をスタートさせます」


「・・・え?・・・か・・・かこ・・・過去?」


「そうです。海野七海・過去編です。七海さんが、どれだけ壮絶な32年間を過ごしてきたか、どうして、いま、こんな天真爛漫なオバチャンに成長したかを、端折り端折り描きたいと思います」


「まってよ!今オバチャンって言った!?50のジジーに言われたくないし!まだ見た目はバリバリお姉さんだし!令和の32歳なめんじゃねえ!!!」


「え?作品の舞台って令和なんですか?」


「え?ちがうんですか?まめじぃ、そこ、大事よ?」


「だって七海さん、昭和ピー年のお生まれだったような」


「うぎゃああ!言っちゃだめええ!令和の32歳でお願いしますぅ!」


「じゃあ、そんな感じで、何とかうまいこと調整しますので、七海さんがどうして主人公に選ばれたのかも含めてですね、過去から現在につながるお話を、しばらく書かせて下さいよ。それが今後のストーリーにとっても大切なポイントになっていくんですから」


「はい。承知しました・・・変なこと書いたら、大仏山に穴掘って埋・・・」


「大丈夫ですって。大仏山ってそもそもマイナー過ぎるし、それ以上の発言をカクヨムでしないでください!ギリギリアウト!」


「じゃあ、まめじぃ、頼んだよ!ちゃんと、かわいく書いてね!」


「イラストじゃないんだから。でもしっかり描きます」


「ほんと、ここで頑張らないと、読者0名になるからね!しっかりね!いつものLINEみたいな訳のわからない長文なんて書いてる場合じゃないの!わかった?」


「はい・・・」


つづく




参考文献:『モチベーション大百科』池田貴将 サンクチュアリ出版

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