第五夜 白い壁、茶色いドア。(2023/5/23)

白い壁、茶色いドア。目が覚めた。目が覚めたから体を起こそうとするが動かない。同居人が玄関から外に出る気配がする。いなくなったのか?……いや、いる。体が動かないからもう一度目を閉じよう。


白い壁、茶色いドア。目が覚めた。今度は体が起こせる。キッチンへ向かい、水を飲む。


白い壁、茶色いドア。目が覚めた。時計の長針がさっきよりも進んでいる。起きてベッドに座っていると同居人が部屋に入ってきた。軽く話をした。


白い壁、茶色いドア。目が覚めた。寝たまま視線を左にずらすと、部屋の中に電子ピアノが置いてある。わあ!と適当に鳴らすとたまたま知っている曲になった。また別の曲を適当に弾くとそれも正確に曲になる。黒鍵だけをランダムに押すと、偶然黒鍵のエチュードが完成した。どう頑張っても「曲にならない」ができない電子ピアノだった。


白い壁、茶色いドア。ドアが開く。同居人がこちらの様子を見るためにドアを開けたのだった。これは現実世界の出来事だ。ようやくこのループものみたいな夢から抜け出せる。「現実と思ったら夢だった」がずっと続いて、体が疲れていたので起こしてもらおうと名前を呼ぶ。何度か呼んだが、ついに気が付かなかったようだ。


白い壁、茶色いドア。電子ピアノの椅子の下で同居人が丸まっていた。夢の中にいたようだが、なんとなく嫌な予感がして起こす。「ああ、助かった。夢の中から抜け出せないかと思った。」彼も夢で同じことが起こっていたようで、「起きたと思ったら夢だった」状態が続いて疲弊していた。カーテンを開けたままにして、明るい状態で昼寝をすると悪夢を見る法則が、以前私の中で存在したのを思い出してカーテンを閉める。「これで大丈夫だよ。」


白い壁、茶色いドア。開けるとそこは実家。寒い日で「銭湯のようなことをしたいね」と話した。ここにも電子ピアノがあって、姉が弾いていた。昔、一緒に連弾したことが一度だけある。


白い壁、茶色いドア。開けると再び実家。白い壁と茶色いドアは、現在私が住んでいる家なのに、なぜか実家に繋がっている。買い物に行くようだ。姉の友人が訪ねてきて、一緒に行くことになった。マイバッグとレインブーツを身につけていると、誰かが「私のことわかる?」と聞いてきた。全然分からない。その辺を見たら、祖母の家にあるらしい銭湯のような大きい風呂場の鍵が置かれていた。雨が降っているから雨用の靴を履きたいと、姉が母に「どこにあるか分かる?」と取ってきてもらおうとしていた。「これ?」「あ、そう。これこれ。」出てきたのは、ショッキングピンクの通気性が良さそうな靴だった。家を出たら雨は上がっていて、水たまりを照らす快晴だった。


白い壁、茶色いドア。電子ピアノが目の前に。椅子を見ると、布団に上半身を包んでアメリカンドックみたいになった同居人の姿。


白い壁、茶色いドア。開いたカーテンから光が入っている。やっと本当に目が覚めた。起きて、ドアを開け、現実を噛み締めた。

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