第四夜 元恋人だかなんだか分からない人(2023/1/25)

「ごめん、もうこの関係終わらせよう。」

いつものようにハグをして、当たり前のようにキスをしようとしてきた恋人の、それを拒否して別れの言葉を告げる。


恋人は一瞬辛そうな顔をしてから、スッと戻り、「ねえ、これから他の人に俺のことなんて説明するの」と言う。

「え、それは普通に元恋人って言うよ。」

「ええ?無理無理。俺、お前のこと恋人だなんて思ってないから。お前が恋人とか無理だわ。」

確かに、明確な告白や交際の約束をした記憶は無い。

「ああ、そうなの?じゃあ、この関係終わらせようよ」

先ほどと同じセリフを、先ほどよりずっと明るく言う。


すると元恋人だかなんだか分からない関係の人物は、何も言わずに向こうをむいて寝転がり、しばらく無言の時間が続いた。その背中を見て、先ほどの言葉は嘘だったんだなあと察する。一瞬の苦しそうな顔と今の背中が、あまりに切ない。先ほどの「恋人とは思ってない」発言は、私の気持ちを軽くするための優しさだった。

その優しさに気がついても、それでも別れようと思った。


寝転んでいた元恋人は、突然スッと立ち上がってドアまで歩き、部屋を出て行こうとする。私は「ごめん、最後にハグしよう。」と言って、ギュッと相手の体につかまる。相手の厚みが分かる。私が手放した厚み。もうきっと感じられない厚み。この人がここを出て行ったら、私たちは友人になる。今が恋人としていられる最後の時間だ。


元恋人はふと近くの棚を見て、「ねえ、この茶碗もらって行ってもいい?」と言うので、そこで厚みは離れて行った。

その人が手に取った茶碗はベージュ色で一箇所に黄色の釉薬がかかっていて、綺麗な円形でなくゆがんだ筒型をしていた。中を覗くと、なぜか仕切りが二つあって、目のような形をしている。見た目は茶碗だが、抹茶をたてられるようには出来ていない。

「なんでこれが欲しいの?」

「この真ん中の目みたいなところ、下の方に穴が空いてて、そこから飲み物が出てくるから。」

よく分からないけど、あまりにもその人らしいので納得してしまった。

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