第三夜 あっちの現実(2022/10/13)※あとがき込み

いよいよ引越しである。荷造りを進めねば、と棚の中のものを段ボールに詰めていく。私は積み重ねたリンゴ箱を棚の代わりにしている。上の箱からどんどん詰めていき、空になった箱は外に避けていく。

引越しまで二週間くらい日にちがあって、今やらなくても平気だけど進めておく分にはそんなに困らないだろう。あと一段。

短い間だけど、まだ少し生活しなきゃなんだよなあ。棚に使っている箱の向きを変えてみようかな。避けていった箱たちをもう一度積み直す。


そういえば、玄関の近くの謎のくぼみに適当に置いていたものがあったな。あれ、こっちに移動させておこうかな。「謎のくぼみ」というだけあって、なぜかちょっと奥まってるから、うっかりするとその場所があることを忘れてしまうのだ。引越したてのとき、その分の家賃も払ってるのだからもったいないと思って、不便な場所なら不便な場所なりの使い方をしようと物置にしたのだった。


物置を見ると、「あ〜こんなのあったなあ」となるような品々。大きな袋が三個ほど積んである。中身はニットとかの軽い布類だ。二袋鷲掴んで引っ張り出すと、手紙の束が足元に吸い寄せられた。一旦袋をおいて拾い上げる。

ああ、これ引越したての時に見失っていたやつだ。引っ越す少し前に、白紙の便箋にイラストを描くというのをやっていたことがあって、それだ。文章は書いてないけど、なかなか可愛いイラストが描いてある。これで手紙書こうとしたんだけど、見つからなかったから断念したんだったよ。

これを探してた時、なぜかお祝い金が入った封筒が無くなったことあったな。あれどこにあるんだろ。まあまあな金額だったから今からでも欲しいんだけど。


さて、ものを移動させるか。先ほど放置した大きな袋をぐっと引っ張る。大きな袋を退けた壁から取っ手が現れる。あ、そうだ。ここ開くんだった。開く、と簡単に言っても、開いた先は電気のついていない倉庫のような場所である。今住んでいる場所で生活している範囲は六畳くらいなのだが、それと同じくらいの広さがある。正直、掃除して電気をつけて空調もなんとかすれば、ここに一人や二人くらいは住める。

ただ問題があって、知らない段ボールが壁沿いに積んであるのである。しかも埃をかぶっている。結構分厚く埃の層が出来ているし、そのせいで周りの空気も埃っぽいから、掃除をする気にすらなれない。だから、一度ここに入ってみて、このような空間があると認識して以降、立ち入っていなかった。うーむ、一回入ったから、その時にうっかりお祝い金を落としちゃったとかあるかなあ。出ていく前にもう一回入ろうかなあ。でも気が進まないなあ。


というので、ウダウダとベッドに横たわっていると、元バイト先の元同期からチャットが飛んでくる。元バイト先から来ていた依頼の件である。なんか知らんが、卒業した従業員達に何かをやってほしいらしい。あの会社のことだから、現従業員が頑張れそうな一言をくれとかそういうんだろう、と思って適当に引き受けたのだった。メッセージを開くと、依頼内容のpdfファイルだった。後で見るか。


横たわったまま左斜め上を見ると、まだまだ片付いていない荷物がある。天井に近いところのやつ引っ張り出すの面倒だなあ。虫の死骸とかあったら嫌だなあ。

そのまままどろみに身を任せ、目を閉じた。


・・・


【あとがき】

これは夢だ。久々にどっぷり夢に浸かった。目覚めようとしても、なかなか目が開けられなかった。これは夢というよりも、「あっちの現実」と言いたくなるような感じだ。私は確かに自分があっちの世界で暮らしていたことがあったような気がしている。

あまりに目が開かない。おはよう、おはよう、おはよう、おはよう。と自分で自分に声をかけて、ようやく目を開く。同時にTwitterも開く。こちらの現実でも時間がちゃんと進んでいて、読んだことのない文章が流れていくのを目で追って行く。遠いような近いような大きな国の戦争の話、子育てしやすい市の長の話、言葉の使い方の話。

飽きたところでトイレに行くため立ち上がる。トイレの電気をつける。一瞬だけついて、パッと消える。何が起きたかわからず、電気のスイッチをパチパチとさせる。つかない。

電池切れである。

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