第6節 立会人と決闘


「大賢者の少女と決闘することになりました。なので立会人たちあいにんになってください」


「はは、お前も面白い冗談が言えるみたいで何よりだ」


俺は教務室でウルハラ教師に大賢者との決闘についてを話していた。

決闘は魔導士のプライドと名のある称号等を懸けた名誉ある勝負だ。不正は許されないため最低でも一人の魔導士の立会人が必要になる。

知り合いの魔導士の中で一番適任なのがウルハラ教師と思い、話したのだが何度説明しても同じような反応が返ってくるので、仕方なくある物を取り出す。


「あの少女からこれを渡せと言われました」


ポケットから黄金色に輝く獅子の懐中時計を取り出してウルハラ教師に渡す。大賢者によればこれを見せると愚者共は貴様の発言を信じると悪態をついた声で渡された。

するとウルハラ教師の顔から血の気が引いて俺の肩を掴んで頭を下げる。


「すまない! まさか大賢者が決闘するを持ちかけるほど不機嫌とは知らなかった」


「いいえ、俺から決闘を申し込みました」


「…………へぇ?」


ウルハラ教師は気の抜けた声で目を丸くする。

もしかしたら聞き取れなかったかと思い、もう一度口にする。


「俺から決闘を申し込みました」


「二度言わなくていい。え? マジで? お前から言ったの?」


「さっきからそう言ってます」


教務室がどよめき、奇怪な目で俺は見られてウルハラ教師は深いため息をついて頭を掻いた。


「……はぁ、まさか本当に命知らずだとは思ってなかった」


「命知らずではないですよ。勝算はありますから」


「お前の力はよく知ってる。だが大賢者にその力は通じない。あれは本当の意味で次元が違うからな」


「そこまで言いますか、ウルハラ教師……いいえ、一人の生徒に負けた羽翼の魔導士」


「おい、やめろ。あれは油断して隙を作っていただけだ」


「そのあと俺に本気で挑んできましたよね? しまいには決闘まで持ち掛けてそれから」


「分かった分かった! この決闘は俺が立会人になる! だからそれでいいな!? よし善は急げ、だ!」


ウルハラ教師は俺の腕を引っ張って大賢者に指定した決闘の場へと向かった。




指定された場所​は教師でも普段は訪れない学園の北方面にある闘技場。

学園の外にあるため周囲は森に囲まれており、闘技場へ続く一本道を通らなければほぼ迷子になる。闘技場を建てた人は何を考えてそこに建てたのか疑問だが、先人の考えたことは本で読むか聞かなければ分からないものだ。


「なぁブランクよ。今から引き返してもいいんだぞ」


ウルハラ教師が逃げの催促を促すが残念ながらブランクの決意は揺らがない。


「今さら言われても決闘をする以上こっちも真剣に挑まないといけません」


「まぁ決闘は神聖なモノだからそうだけどよ。あの大賢者が相手ってなると話が変わる」


「前に挑んだ魔導士がボコボコにされた件ですか?」


「そうそう。まるで蜂にさされたみてぇに顔面が膨れ上がってて、どうしたらそうなるんだって腹抱えて酒場で吹聴しちまった」


「最低ですね、ウルハラ教師」


「担任教師に向かってその言葉はないだろ。単位落とすぞ、こら」


「あの少女より横暴ですよ」


ブランク達は闘技場のひらけた場所に出るとあの銀髪少女が片手に本を持って読んで待っていた。


「遅いぞ。もうとっくに一秒過ぎている」


銀髪少女は本を閉じて懐にしまうとブランク達を睨みつけた。


「一秒で遅刻認定って時間に厳し過ぎないか?」


「時間というのは一秒一秒に意味がある。それを無下にしては私に遠く及ばないぞ?」


「そうかよ。なら一秒一秒完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」


俺は腰に掛けていた杖を取り出して少女に向ける。ブランクの後方にいたウルハラ教師は呆れた表情で口を開く。


「ああ、念のため決闘のルールについて話すぞ。これも由緒あるしきたりなんでな」


決闘のルールは全部で四つだ。

一つ目、最低一人の魔導士が立会人として参加すること。不正や勝敗の審議が必要だからだ。


二つ目、必ず同人数で戦うこと。

2対1のように相手が不利にならないように公平にするためだ。


三つ目、魔法の杖と体術以外でのアイテム持ち込みは禁止。

己の実力を示す決闘にアイテムで水増ししては相手に無礼であるからだ。


最後に四つ目、相手を殺してはいけない。

文字通り命を奪うことは決して許されない。相手が倒れるもしくは降参すれば勝ちとなる。

また、何か不測のことが起こった場合、立会人が決闘を中断することが許されている。


「以上だ。何か質問ある人いるか?」


「「ない」」


ブランクと大賢者は同時に声を出してお互い睨み合う。嫌悪な二人にウルハラは苦笑いを浮かべて遠く離れる。


「際ですか。んじゃ、お互い位置につけ」


ブランクと大賢者は十数メートルの間を空けて、ブランクは杖を構える。


「コホン。では羽翼の魔導士の名のもと決闘を行う」


その言葉にブランクの集中力が高まり、必ず倒すと意気込んでいたが…………大賢者はまるでブランクが小石の存在のように無機質な態度で欠伸をする。

名も無き魔法使いごときに負けるわけがない、そんな傲慢な態度にブランクの闘志が高ぶっていく。


「では​​───────始め!」


ウルハラの決闘開始の合図とともにブランクは杖を大賢者に向ける。だが、ある違和感がブランクを襲った。それがなんなのか、一瞬戸惑って詠唱が僅かに遅れる。

最初に気づくべきだった。それがどれほど異質なモノなのかを。得体の知れない何かに触れたときには手遅れだということを。


限定なる停止世界アベイアンス


大賢者は魔導士に必要な詠唱を唱えたのだった。

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