第22話 THE BATTLE OF KOENJI

高円寺中央病院。

 アレクがいる個室のドアを開け入ってくる影。

その影は照明の付いてない真っ暗な室内で歩を進め、ベッドの傍にくると寝ているアレクの全身へ満遍なくサイレンサー拳銃の弾を布団越しに撃ち込み、硝煙の匂いが部屋に充満する。

 影がベッドの傍を離れようとした時、照明が点く。

「HOLD UP!」

沖田と近藤洋次郎が影に向けてティーザー銃を構える。

その後には特殊警棒を持ったアレクとトオルも待ち構えていた。

全員、防弾フェイスシールドと極厚防弾チョッキの重装備だ。


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2週間前:沖田が使用する公安監視部屋。

「このままアレクの狙撃犯を待っててもラチが開かないので、こちらから仕掛けようと思います」沖田。

「沖田君、君は何をやろうとしてるんだい?」近藤洋次郎。

「2週間後のリエさんのライブの日。アレクは狙撃された事にして俺が手配する病院に入ってもらう。そこで、アレクを殺しに来た殺し屋を捕まえる」

「沖田、僕はリエさんのライブ見れなくなるから嫌だっ!」

「うるせーぞ、石油王!黙ってオレの作戦に従えっ!」

「んんぐ~」グズるアレク。

「味方も騙すので、健吉さんと秋山さんにはライブハウス側の客の動揺を収めて下さい」

「分かりました」同意の健吉と秋山部長。

「近藤さんは僕の方に来て下さい。それと健吉さん、トオル君貸してもらえますか?経歴調べたら、腕っぷしと度胸のある人みたいで」

「どうぞどうぞ、アイツ少年院出て来て更生したけど、チカラ有り余ってますから。アレクさんの為なら火の中でも水の中でも飛び込みますから。鉄砲玉にでも使って下さい」

「健吉く~ん、沖田く~ん、それダメだよ~」首を横に振り諌める近藤旦那。


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高円寺中央病院、病室。

 近藤洋次郎がティーザー銃を前にして英語で吠える

「グスタフォ・ワリシコフ。殺人未遂及び建造物不法侵入の罪で逮捕する。投降しろ!」

ベッドに弾を打ち込んだ影は、以前にアレクの腕を狙撃で負傷させたグスタフォ・ワリシコフだった。


 沖田はアレクに弾着機能付きの防弾チョッキを着せ、ライブハウス前でアレクのチョッキを遠隔操作で狙撃されたかの様に着弾爆発させて血糊をスーツににじませた。そのままチャーターした救急車にアレクを載せ、あらかじめ用意していた病院に入院、個室病棟でダミー人形に寝てもらい、沖田達は隠れてグスタフォ・ワリシコフを待つ。その罠にまんまとワリシコフが引っかかった格好だ。


 ジリジリとワリシコフに近づく沖田達。

銃で威嚇するワリシコフ。

痺れを切らしたトオルが「大和魂舐めんなよっ!」と叫びながらワリシコフに飛びかかる。

しかし、ワリシコフはトオルに向かって隠し持っていた短筒ショットガンを炸裂。

その威力で防弾チョッキを着てるがトオルは後方に吹っ飛ばされ病室の壁に叩きつけられる。

「トオルくん!FUCK!」アレクは切れてワリシコフに躍りかかる。


 ワリシコフは続けてアレクにヘッドショットしようとする。

ヘルメット越しのアレクの眼前にワリシコフの銃口が迫る。アレクは死を覚悟する。

その刹那、病室のドアがバーンと開き防具なしのレオナルド・クルーズが叫びながらワリシコフに向かって突撃する。

「!?」病室内の敵味方一同が驚く。

ワリシコフが俳優のアマレス式低空タックルに激突され体勢を崩した瞬間、ショットガンがアレクから外れ天井に向けて散弾を発射する。散弾の発射と同時にアレクは両手を固く握り結んだ全力のダブルスレッジハンマーをワリシコフの脳天に叩き込み、ワリシコフは病室の床に倒れて失神する。


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ワリシコフの捕物騒動が終わった病室。

 ワリシコフは、近藤夫妻が病院内の別の部屋へ連行した。

トオルは肋骨が数本骨折で済んだようだが、このまま高円寺中央病院に強制入院。

ワリシコフとの格闘で戦場の様になった病室に残されたアレクと沖田とレオナルド・クルーズ。

 沖田が、乱入したレオナルド・クルーズに英語で詰問する。

「ヘイ! ムービースターさんよー!なんであんたはこの部屋で暴れたんだ?ワリシコフを捕まえられてコチラとしては嬉しいけどさー」沖田は誰にでも失礼な物言いだなとアレクは思った。

 後から病室に入ってきた付き人に鏡を持たせ、髪をクシでセットしながら質問にNY訛りの英語で返答するレオナルド・クルーズ

「ライブハウス前でアレク君がシュートされたのを見て、いてもたってもいられなくて病院に駆けつけたんだ。同じ女を愛した男が・・・」

アレクが怒った表情に変わったのを見て言い直すハリウッドスター

「失礼、アレク君。言い換えたら、アレク君の女をナンパした縁で病院に来たとこかな」

「そんな事いいから話を進めて」イラッとする沖田。

俳優は続ける「そしたら、テロリストが君達を襲っているところを目撃した。それで君達には悪いけどワクワクしてきてね、スリルジャンキーな自分自身を抑えきれなくて殺し屋にタックルしたんだ。芸の肥やしになるなら何でも首を突っ込みたくなるタチでね。それとガチンコの喧嘩が大好きなんだよ」

髪をセットし直した俳優はアレクと握手し

「まあ、アレク君も怪我がなくてよかった。俺はまだ日本にいるから六本木で飲みに行こうよ。あのかわいい恋人さんも連れて来てね。それとさ、君をモデルにした映画を俺の主演で考えてるから、寒い国から来た男が東京で暴れる話とかね」

「はあ。レオさん、高円寺の居酒屋で俺が奢らせてもらいますよ」

「そうかい。ところで、さっきの警官はUFCスターのYOJIROでしょ?転職したの?あの人も飲み会に呼んどいてよ。もう俺行くわ」付き人と共に病室を出て行くハリウッドスター、出口ですれ違う看護婦をナンパしかけるも付き人に止められる。


 最後に病室に残ったアレクと沖田。気まずいのか、互いに顔を見ず会話する。

「アレク、ワリシコフを近藤夫妻が尋問してお前の敵が誰か判明するのは数時間後か数日後になるだろう。忠誠心の無いプロの殺し屋だからすぐにゲロるかもな」

「ああ、ありがとう沖田。これで国へ帰れる」

「しっしっ早く行け。後は公安で処理するから」沖田がアレクを手で払う

「沖田、レオナルド・クルーズも来る飲み会にお前も来てくれ。若山さんに振られたお前の合コンも兼ねるから、菱菱商事の女子社員も沢山呼ぶからさ」

沖田は背中をアレクに向けて言う「早く国へ帰りな、お前が嫌いだ」

「僕も嫌いだ、じゃあ帰る」アレクは微笑み、病室を出てゆく。

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