第20話 楽屋。MY BABY JUST CARES FOR ME

「明日香さん、私唄えない」リエは涙声で近藤明日香に言う。

 その時、リエの背後から声がかかる。

「ダメ!リエさん、あなたは歌うのよ」

リエが振り向くとH@RUKAがいた。

「H@RUKAさん・・・・」

「明日香ネエさん、リエさんもらいますね」

 近藤明日香は呼び止めたタクシーに乗り込み、リエはH@RUKAが連れて行く。

「痛いっ、H@RUKAさん」

H@RUKAは強引にリエの手を引いてライブハウス「REY MOMO」の楽屋に連れて行く。


 専用の個室楽屋に強引に入れられたリエ。楽屋にはH@RUKAが手配したメイクさんとスタイリストが先にいる。

リエは仏頂面で楽屋の入り口から動かない。

 H@RUKAがリエに命令気味の口調で指示する

「リエさん、時間がないから早くこっちの椅子に座ってメイク受けて」

「・・・・」

「リエさん、さあ早く!あなたは歌うのよ」

「いやです、唄えません!」

 リエがドアを開けて楽屋を出ようとするが、H@RUKAが素早くリエの前に立ち左頬にビンタをする。

顔をしかめるメイクさんとスタイリスト。

 リエは緊張の糸が切れたのか、両目から大粒の涙を流し泣き出してしまう。

「だってアレクさんが~アレクさんが~」

リエを抱きしめるH@RUKA

「リエさん、お聞きなさい。あなたは歌手になりたいのよね?歌手は親や恋人が死んだくらいで、悲しいことがあったくらいで歌をやめることは出来ないの。目の前のお客さんに自分の魂を込めた歌を届ける事が歌手なのよ。歌手が歌わなくなるのは死ぬ時だけよ」

H@RUKAはリエの顔を両手で優しく挟んで

「さあ、リエさん歌いなさい。あなたを応援してる人達の前で集中して歌うのよ」

「はい」泣き止み涙は止まったリエ。

 H@RUKAはリエをメイク席へいざない、BGMでニナシモンのライブレコードをかけ始める。

 メイクを受けて衣装を身につけて行くうちにリエは、H@RUKAに受けた言葉が効いたのか、澄んだ湖面の様に落ち着いた表情になり目を閉じた。部屋にはニナシモンの歌だけが流れる。


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 高円寺中央病院に救急車が横付けされ、救急隊員がアレクを載せたストレッチャーを病院内に運び込み、その後を近藤明日香が付き添って行く。

それを遠くから見つめるサングラスの男。


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ライブハウス「REY MOMO」 楽屋。

 ニナシモンのレコードが歌い終わった時、タイミングよく楽屋の扉が開きライブハウスのスタッフから出番の声がかかる。ゆっくりと目を開くリエ。

 H@RUKAはリエの肩に手を置き、鏡越しにリエを覗き込む「リエさん、出番よ。今日来たお客さんの為に歌いなさい。私達はフロアーから見てるから」

「はい」


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高円寺中央病院。

 人けがない廊下の中にあるアレクが収容された個室。部屋の中から、医者と看護婦と近藤明日香が出て来て廊下の向こうへ歩いていく。

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