第13話 警察病院。CARMEN HABANERA

アレクが運ばれた警察病院。

近藤明日香と共に廊下を足速に歩くリエ。

 制服警官が見張っている個室病室に入っていく。

中には、アレクがベッドに横たわっていた。

「アレクさんっ!」

アレクに駆け寄ろうとするリエだが、ベッドのそばで近藤明日香に止められる。

「リエさん、アレクくんは怪我して寝てるからね」


「大丈夫ですよ近藤さん、左腕に少し弾が掠って火傷になったぐらいですね。ジャケットとボタンシャツがダメになりましたけど」

上半身裸で左上腕部に包帯を巻いたアレクが上半身を起こす。

「アレク君、大丈夫なの?」

「はい」

 アレクの大丈夫そうな様子と、左腕の包帯を見て緊張の糸が切れたリエは大粒の涙をこぼし声をあげて泣いてしまった。

「リエさん、泣かないで下さい。僕はこうして生きてますから」

涙が止まらないリエ。リエ

「リエさん、あなたが泣いてどうすんの、アレク君が心配するでしょ」

「ふぁい」

リエは近藤明日香に言われ、なんとか返答する。

 ジリリと近藤明日香の携帯がなり

「ちょっとワタシ電話出るから。リエさん泣き止んでね」

病室を出て行く近藤明日香。それに頷くリエ。


 ヒックヒックとしゃくり上げるリエの頭をポンポンと叩くアレク。

「リエさん、大丈夫ですか?」

「はい」

「良かったです。僕のプライベートのトラブルでリエさんを悲しませてごめんなさいね」

「なんで、アレクさんが謝るんですか?それにアレクさんってアレキサンダーなんですか?アレクセイなんですか?近藤さんが無線で言ってましたよ」

 アレクは右腕でリエを引き寄せ軽くキスをする。

「もうっ!こんな時に~」

驚いて、顔が真っ赤になるリエ。

「ははっ、リエさん泣き止みましたね」

アレクはリエをベッドの端に座らせる。

「またリエさんに怒られそうですが、僕はリエさんに隠してた事や嘘ついてた事を言わなければいけません」

「なんなんですか?アレクさん」

リエはアレクの顔を見る。

「ウクライナ系イタリア人の服屋さん、アレキサンダー・ジョバンニではありません。僕の本当の名前は、アレクセイ・フローロヴィチです。ウクライナから移民した極東連邦共和国の人間で、そこの企業ボストークガスのCEOと政府の相談役をやってました」

息を呑むリエ。

「ですが、クーデター寸前の政争に巻き込まれ、フィアンセや友人と思ってた人達に裏切られて国を追われ、日本政府を頼って一人でココに亡命して来ました。極東連邦共和国には僕の支持者は居るはずですが、敵の首謀者が判明するまでは帰れません。それに僕を狙って、旧ロシアの残党が殺し屋を差し向けているらしいです」

 アレクは包帯の左腕をリエに向け

「その殺し屋の成果がコレです」

「アレクさん、生きてて良かったです」

リエがアレクの右手を両手で握り締め顔を覗き込む。

「リエさん、クーデターがなければあなたに会えませんでした。神様と旧ロシア人達に感謝します。でもねっ・・」

「うるさいっ」

小さく呟いたリエが、両手をアレクの首に回してアレクの口をキスで塞ぐ。

「んんん」

驚いたアレクだが、残った右手をリエの腰に回し、リエのキスに応えて熱いキスをする。

「リエさん」

「アレクさん」

互いの口を貪るように情熱的にキスする二人。

 アレクの右手がリエの腰から臀部に動きかけた時。

コンコンと病室のドアをノックする音が鳴り

「お二人さん。警察病院ではキスまでで勘弁してくれ」

沖田が病室の入り口に立っていた。

 沖田に気付き、パッと離れる二人。

リエは恥ずかしさで顔を真っ赤にし、何も言えずに病室の床を見つめている

「沖田、のぞきなんてお前趣味悪いぞ」

アレクがなじる。

「ごめんごめん、声かけたけけど二人とも燃え上がって聞いちゃくれないからな。それ以上はヨソで頼むわ」

「お前モテないぞ、お前嫌いだ」

「なんとでもゆってくれ、俺もお前嫌いだから。あっリエさん、私も身分偽ってまして、経済産業省ではなく公安警察の警官です。近藤明日香、あのお姉さんは内閣調査室の偉い人で旦那は警視庁の偉い刑事さんですから」

「はあ」

「それで、お二人さん。俺はアンタ達の恋愛を邪魔しにきたわけじゃなくてね。アレクの居場所が敵にバレたから次のフェイズに移る連絡に来たんだ。明日からアレクは、高円寺のヤサを引き払って公安が指定したホテルに移ってもらう」

「ええッ!イヤダッ!」

同時に抗議する二人。

「恋人同士でハモるのは面白いけど、アレク、アンタを守る為なんだ。判ってくれ」

「嫌だ、俺はリエさんと離れないッ」

アレクはリエを右手で抱きしめ沖田に言う。

アレクの腕の中でリエは顔を赤らめている。

「うーん、めんどくせー」

右手を額に当てて病室の天井を仰ぎ見る沖田だった。

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