第6話 アレクの能力。旧中国圏第3リージョン

菱菱商事繊維課。

 リエは若山に昨日のアレクの事を話す。

「公務員の沖田さんが教えてくれたんですけど、アレクさんねイタリア貴族の王子様なんですよ」

「ええーっ、そうなの」

「それで昨日の夜ね、アレクさんの部屋の片付け手伝いに行ったら、アレクさんは貴族だから偉そうに私をメイド扱いだったんですよ」

「あらら」

「私、アレクさんの態度にキレちゃって喧嘩してスリッパを投げつけて出て行っちゃったんです」

「アレクさんの顔にスリッパ?」

「そう。でもね可哀想だから手伝おうと思って焼鳥とビール買ってきて、一緒に食べた後にアレクさんを手伝おうと思ったんですけど。私が酔っ払って、アレクさんに命令して片付けさせたみたいで」

「国際問題よ~」

「それで、そのままアレクさんのベッドで寝てたみたいでして」

「きゃー刺激的~」

「でもね、アレクさんは床で寝てくれてて何にも無かったんですよ」

「アレクさん紳士ね~」


 若山と楽しく会話をしてたリエの元に1本のビデオ通話がスマホにかかって来た。

「HELLO」リエは商社という仕事柄英語で対応するが、画面向こうのアジア人男性は中国系の言語で捲し立てて来た。

 この男性はセーターを画面に見せつけて怒っているようで、リエは引いてしまう。

若山が心配して聞いてくる。

「リエちゃんどうなってるの?」

「はい、うちの製品のディーラーさんみたいなんですが、こちらの方がセーターの件についてクレームを言われてまして。旧中国の方なのは判るのですが、どの国かわからないですし、北京語でも広東語でも無い言葉を話されてるようでして、どのみち私は中国語わかりませんが」

若山が繊維課の室内を見回し

「それでタイミング悪く、繊維課には謎の言葉のスピーカーが居ないわけね」


 ディーラーがスマホの画面からガミガミ怒り狂い、言葉の解らないリエ達がオロオロして騒然としている繊維課に遅れてアレクが出勤してきた。

アレクは繊維課の異変を察知し、短い挨拶を済ましてリエに内容を聞いてきた、というよりも聴取して来た。

「リエさん、トラブルですか?手短に」

「はい、ウチの製品のディーラーらしき方がセーターについてクレームを言われてきて怒り狂ってます。旧中国圏の方でどこの国か判らないし、何語を話されてるか不明です」

「わかりました。リエさん、スマホ貸して」

アレクはリエからスマホをサッと掠め取る

「あっ、アレクさん」


 アレクはスマホ画面の向こうのディーラーに北京語で挨拶して2、3語話しかける。

ディーラー側から返答があり納得したアレクは、中国圏の謎の言葉に切り替えて流暢にマシンガントークで話し出す。画面の向こうのディーラーと会話が成立してるようだ。

アレクの様子を呆然と見つめる繊維課の一同

「リエちゃん、アレクくん凄いわね」

「うん」

部長室から出てきた秋山部長も興味深げに見ている。

 アレクはディーラーと会話しながら謝る動作をしたり、笑ったりして会話は盛り上がって雰囲気は良くなってる様だった。

会話がスイングしてると思ったら、アレクが突然スマホの向こうに中座のポーズをとりリエの方を振り向き

「リエさん、このブランドの顧客向けカタログすぐ出して。QUICK(早く)!」と突然指示を出す。

 やっぱり王子様気質じゃないのとイラッとしながらカタログを探し出すリエ。

その間にアレクは秋山部長と若山に早口で話す

「相手は貴州共和国の方で、セーターの色合いが展示会で見たのと違うとクレームでしたが消火しときました」。

展開が早くて「はい~」と返答しかできない秋山部長。

「ディーラーさんは、機嫌良くなりまして次の商品も買いたいから何か勧めてくれと言われましたので、大きな商談まとめますけどいいですね?」と確約を求める。

秋山部長と若山はドキドキしながら

「OKです」二人してOKポーズをとる。

 そうしてる間にリエは素早くカタログを見つけ出しアレクに渡す。

若山「アレクさん出社してから5分しか経ってませんけど」

秋山部長「クレーム片付いたから、そのおまけで儲かるならいいかな」

 それからアレクは貴州のディーラーと商談に入り会話のラリーが盛り上がる。商談だけに、笑いだけでなく悩んだりイラつく演技のアレクが見える。

 又、突然アレクは会話を中座してリエの方にクルッと向き

「リエさん、旧中国圏第3リージョンはうちのブランド被りはないよね」

「はい、ないです」

「ありがとう」

 アレクはクルッとスマホ画面に向き直り、貴州のディーラーと商談を再開する。

それから10分後にアレクは商談を笑顔で終わらせ、貴州共和国のディラーと握手のような仕草を画面に向かって行う。


 商談が終わったアレクは、秋山部長の元にいき謝る

「部長、貴州地域の商談終えました。100億行くと思ったのですが50億しかまとまりませんでした。すいません」

「いえいえアレクさん、全然満足です」アレクの両手を握りしめ深々と感謝のお辞儀をする秋山部長。

「出勤して30分未満で50億って、株式ディーラーの世界じゃないの!」恐縮する若山。拍手する繊維課一同。

「アレクさん、かっこいい」

俺様気質はあるけどアレクを見直すリエだった。

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