第4話 王子様と高円寺の夜。ME IN HONEY
高円寺、リエが住むマンション。アレクが菱菱商事に初挨拶に行った日の夜。
会社で説明された通り、リエの隣の部屋に沖田と近藤明日香が付き添いでアレクがやって来た。
近藤明日香がアレクに説明している。
「トイレと風呂以外はアレクさんを守るために監視カメラが付いています。何かあればスグに連絡ください。24時間交代で監視はしておきます」
その説明を横で聞いていたリエは小声で沖田に質問する。
「24時間カメラで監視って、アレクさんは何者ですか?」
「アレクはイタリアの貴族の王子で日本政府が守らなければいけないのです。気難しいとこもあると思いますが、リエさんお願いしますよ」リエにささやく沖田。
リエ、ウンとうなずく。
沖田と近藤明日香が帰ったアレクの部屋。
着の身着のまま日本にやってきたアレクは、銀座で衣類を買い込んできたようで部屋中にルイヴィトンやグッチといったハイブランドの紙袋が大量に置かれていた。
アレクはリエを見ずに、開口一番
「スーツはこっちに入れて下さい、靴はブラシを掛けてこちらに収納で、下着は色を揃えてロール式で収納、ベッドのシーツはピシッとシワなくお願い、石鹸はシリア石鹸を買い忘れたので明日ロフトで買ってきてください」と召使いのように当然に言いつけて来た。
リエはアレクの言い方にカーッと来て
「あのね、私はメイドじゃないわよイタリアの王子様!全部自分でやりなさいよっ!」と怒鳴りつけ、スリッパをアレクの顔に投げつけると部屋を出て行った。
「なんなんだ、あの子は?」一人グチるアレク。
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リエは自分の部屋に戻り
「何よあのイタリア貴族、エラソーに命令なんかしてっ!サイテーっ!」と一人怒っている。
リエはプンプンと怒りながらも気を落ち着けようとギターをつま弾く。
適当に曲を弾きながら鼻歌を歌っているうちにリエは怒りの感情が静まり、可哀想という感情が湧き上がってきた。
【アレクさんは知らない異国に来て違う環境で慣れないはずなんだ、貴族の人だから他人に命令するのが当然の環境だったから先程の命令の件は許してワタシはアレクさんを手伝おう】とリエは考えてたらグーッとお腹が鳴った。
とりあえずアレクを手伝う前に食べ物を買いに行こうか、リエはマンションを出て高円寺駅前の焼き鳥屋「ME IN HONEY」へ焼鳥とビールを買いに行った。
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約1時間後。
リエがアレクの部屋のチャイムを鳴らし、ドアが開いてアレクが顔を見せる。
「仲河さん・・・」
「アレクさんあのね・・・」
一瞬の間があり
「先程はごめんなさい」示し合わせたかの様に同時に謝り、同じ文言がシンクロして恥ずかしくなり顔が赤くなる二人。
「アレクさん、さっきは怒ってスリッパなんか投げつけてごめんなさい。ケガしてないですか?痛くないですか?」
「いえいえ仲河さん、僕の方が悪かったんです。使用人を扱うような言い方をして、仲河さんを傷つけてしまいすいません。あなたを雑に扱うつもりはなかったのですが、ごめんなさい」
「んーん、いいんです。貴族の方ですから、私達庶民とは感覚が違うと思いますので。慣れてなかったワタシの方が悪いんです。リエって下の名前で呼んで下さい」
「えっ、貴族っ・・?」アレクが質問を言い終わらないうちに
「ささっ、アレクさんもお腹すいてるでしょ。食べ物買って来ましたから」
リエは焼き鳥屋のビニール袋を見せ、大きなアレクとドアの間をチョコチョコとすり抜けて部屋に入っていく。
アレクは、自分の真横を通り過ぎていくリエを見下ろしながら、子犬かリスの小動物みたい又は昔見た日本のアニメのキャラだなと思った。
部屋に入り、「えーっ」1時間たっても1割も片付いていない部屋を見たリエが言う。
「アレクさん何やってるんですか、片付いてないじゃないですか。だめですね」
「はい~」
リエは雑然と散らかった部屋の床に二人分のスペースを確保し、焼き鳥とビールを並べる。
「とりあえずは、後でワタシも一緒に片付けるので、食べましょ食べましょ」
「はぁ」
リエとアレクは床に座ってビールを片手に焼鳥を食べる。
「美味しいですね」
「そうでしょ、高円寺駅前にある焼き鳥屋「ME IN HONEY」の焼鳥なんですよ。会社の若山さんとよく行くんです。今度アレクさんも連れて行きますね」
リエは楽しいのかビールが進んでいる。
「アレクさんがイタリアの方ですからワインを探したんですが、この時間にいいワインが売ってる店がなくてビール買っちゃいました。でも、ビールも美味しいですもんね」
焼鳥を頬張りビールを飲み干すリエ。短時間に2缶目だ。
「リエさん、ビール飲み過ぎ・・・・」リエを心配するアレク。
30分後。
自分の荷物を整理して一生懸命片付けるアレク。
しかしリエはというと、ベッドでへたり込みながらアレクに指示というより命令を飛ばしている。
「そのルイヴィトンのスーツはそっちのウオーキングクローゼットに」
「はいっ」
「トムフォードのシャツは、そのタイプは畳んでタンス棚に入れろ」
「ハイッ!」
「おいっアレク、お前ベルルッティのカバンなんて買いやがって金持ちだな~。でもギャルソンのシャツ着てるのは許すっ!俺もギャルソンは好きだぜっ」
「ハハッ」
クダを巻くリエに苦笑いしかない、酔っ払ってるが服関係に勤めてるから服の扱いは的確だなと感心するアレク。
リエは酒に弱く、ビール2缶で酔っぱらてしまい、手伝わずにアレクに命令するばかりだ。
アレクは酔っ払いのリエの命令に従い部屋を片付けていく。
「リエさん、酒弱すぎですよ、水飲みますか」
「うん」
リエさんは飲んだら酒乱になるタイプか、と思いながらアレクは冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってくる。
「リエさん水ですよ」
水を持って来たが、リエはアレクのベッドからこぼれ落ちる様に寝入っていた。
アレクはヤレヤレと首を振り、ベッドから落ちそうなリエを抱え上げ自分のベッドへ仰向けに置き直しシーツをかけてあげた。
イビキをかくリエを見ながら
「面白い子だな~」一言呟き整頓作業を再開したアレクだった。
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