第12話 それが在る意味
「フラれたとかじゃないし。別に告白したわけじゃないし」
不機嫌さを隠さず、枝豆を口に放り込みながら愚痴る葉室の肩を、警察官の今野がぽんと叩く。
「まあまあ。しかしその女の子もそんなに魔法が嫌いかね。よほど田舎の出身か?」
「生まれた時からここに住んでるみたいだけどね……しかし、なんなんだろう魔法って」
葉室の呟きに、消防士の横山が答える。「何? 今さら」
「だって考えれば考えるほどわかんなくなっちゃってさ……
遠藤さんみたいに、魔法が嫌いって人、たまに居るしさ……
魔法使い規制法なんて出てきちゃったりするしさ……
魔法なんていらない、魔法なんて在るべきじゃないって言われている気がするんだ。でもその一方で、魔力持って生まれてくる子は居るわけだろ。
今までなんとなく使ってたけどさ、どうして自分が魔力持って生まれてきちゃったんだろう、魔法なんて異次元な力が存在する意味ってなんだろうとか、考えちゃって」
三浦がぐいっと生ビールをあおって言った。
「ないでしょ、意味なんて。ただ在るから在るんだよ。宇宙と同じだろ。宇宙が存在する意味なんてあるか?」
三浦の言葉は、今の葉室の胸をなかなかにえぐるものだった。
存在する意味も意義もなく、無くせるならその方が良い、その方が安全で平等だとでも言うのか。
魔力を持って生まれながら、少しの躊躇もなく魔力は障害だと言い切れる三浦の豪気さが羨ましかった。
ふと、葉室の胸に中学時代の親友の顔が浮かんだ。
神林という名のその友人を、葉室はカンちゃんと呼んでいた。
「カンちゃん、どうしてるかなあ」
先日、今野との電話でも話題に出た、小中学校時代の仲間の1人。
「カンがどうした?」
今野からそう聞かれ、葉室は訥々と話し出す。
「俺ね、カンちゃんが転校していってからしばらくは手紙のやりとりしてたんだよね。ご両親が離婚して、カンちゃんはお母さんに連れられて、お母さんの故郷に帰ったんだよ。そこですごく苦労してたみたいなんだ。
この時代になってもさ、お年寄りの中には魔力もちのこと、妖怪とか狐憑きとか言って差別する人いるじゃない。カンちゃんのお母さんの田舎も、まだそういう風潮が強かったみたいで、妖術使いとか言われて肩身の狭い思いしてたみたい」
今の葉室になら、神林の気持ちも境遇も、少しはわかる気がした。
中学生の彼が、母と2人、田舎で針の筵のような状態で暮らしていたのかと思うと、なんとか助けにはなれなかったのかと悔やむ気持ちさえある。
もう一度会えたならと心から願う。
少ししんみりとした空気を一刀両断するように、横山がビールを飲み干し、「すいませーん、ナマひとつー」とおかわりを注文した。
筋肉の塊のような腕をにゅっと伸ばし、空のグラスを店員が取りやすかろう位置に置くと、へらっと笑った。
「まー俺はね、馬鹿だから難しいことはわかんないんだけどね。俺の魔法で、1人でも2人でも助けることが出来ればそれでいいんだよね」
シンプルなその考え方が、また眩しく羨ましいと、葉室は素直に思った。
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