第11話 魔術の灯
同日、夕方のニュースから、一つの組織が大きく報じられ、日本全国を揺るがした。
平野議員事務所を中心にして広範囲の住宅が被害に遭った事案、それ以外にもここ一月ほどの間に頻発した謎のインフラ破壊事案などについて、そのすべてを実行したのは自分たちだと、犯行声明が出されたのだ。
国内の主要なメディアに同時に送信されたメールに署名されていた組織名は、〈魔術の灯〉。
犯行声明の中で、自らを魔術師と称し、魔力は神が与えたもうた特別な力と説いている。
「持つ者と持たざる者。我々は圧倒的に前者である。
重力1つ自由に操ることができない凡夫どもが、何故魔術師を管理する立場に立てると思うのか、その厚顔無恥にはほとほと呆れを禁じえない。
君らは数の力で我ら優良種を管理してきた。だが、ことここに至って看過できぬ事態となった。
魔力は神が与えた力である。魔女狩りをして、その脳を切り刻んだところで、人間ごときに奪えるものではない。
これ以上愚行を重ねるというのなら、神の怒りの鉄槌がくだるだろう」
突如、日本に現れた本格的なテロリストに、テレビも新聞もネットも大騒ぎとなった。
実際海外では魔法を神秘的なものとして崇めたり恐れる国もあり、宗教観も相まってその概念を世界で統一化することは難しい。魔法使いを科学的見地から論じない考え方が一般的に浸透している国もある。そんな中で、日本ほどドライに管理しようとする国の方が珍しかった。
ネットの匿名掲示板では賛否が別れ、魔法使いを優遇するべきと言う者、治療が可能ならば任意によって処置すべきと言う者、危険分子となりうる障害は排除すべきと言う者、議論は様々だった。
そんな中でもっとも大きい声をあげ、世間の注目を集めたのは、今回のテロの標的と目されている平野議員である。
「私はこんな卑怯な脅しには屈しません! テロリストの前に膝を折ることなどありえない!」
今はまだ、魔術の灯は直接的に人間の生命や身体を傷つけてはいない。平野議員の強気はテロを楽観しているだけだという意見も少数ながらあるものの、議員を支持する声はにわかに高まった。
開催まで一か月を切った防災フェスタへの出席はどうするかと問い合わせた市役所に、予定は変更なく出席するとの回答があり、防災対策課は当日の警備について警察に相談に行くという、新たな業務を仰せつかったのだった。
そんな中で世の中が盆休みを迎えようとする8月中旬の水曜日。
駅前のチェーン店居酒屋にて、多忙の間をかいくぐって、再び同窓会が行われていた。
首謀者は記者の三浦、救命医の薬丸は都合がつかなかったため、メンバーは4人。
「本日皆さんにお集まりいただきましたのは、他でもありません。我らが葉室くんが、僕の目の前で女性にフラれたことを記念いたしまして」
三浦が乾杯の挨拶を告げると、葉室が「記念するんじゃないよ、そんなこと!」と間髪いれず声を上げた。
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