第3話 消防局中央消防署 横山

 消防士は24時間勤務、火事や救助があれば即座に出動する。


 その意味では出勤して次の日退勤するまでは常に仕事時間と思われているふしがあるが、実際には勤務時間と休憩時間は細かく決められている。定められた時刻どおりに休憩が取れるかといえば、もちろんそれはあり得ないが。


  昼の12時から13時は食事時間と昼休み、その辺りは他の市役所職員と同じである。


 食事を摂り終え、自席でスマホを眺めていた横山だったが、島の電話が鳴るとワンコールで受話器を取った。新規採用された頃からの教育が染み付いているのだ。


「はい、中央消防署、横山です」


〈ちょうどよかった、葉室だけど〉


 聞こえてきた友人の声に、横山は表情を緩める。


「おー、どうしたムロちゃん」

〈いや、実はさー、この前コンちゃんから連絡があってさー〉

「今野から?」

〈そうそう、なんか妙に懐かしくてさ。で、いい機会だから同窓会でもしようかなんて話になって〉

「ああ、いいね。5人全員集まるといいな」


 県に1校あるマ童専門小中学校において、たまたま1学年の数が少ない年に入学した葉室たちは、小学校から中学までを通して、同じメンバーで過ごした。


 葉室、今野、横山、三浦、薬丸。中学2年生まではもう1人、神林も居たが、両親が離婚し彼は母親の郷里に帰ることとなり、転校していった。


 横山の問いに、葉室は肯定で返す。

〈そうそう。場所とか俺が決めるから、各人への連絡は横ちゃんも手伝ってくれる?〉

「おっけー。皆ともしばらく会ってないからなー、楽しみだよ」


 そうしてしばらく雑談し、電話を切った。


 横山の斜め前の席に座る先輩が、紙パックのオレンジジュースをチュウっとストローで飲んでいる。

 口を離して一息ついてから、横山に話しかけた。


「横山、午後から水利調査行くぞ。順路、適当に決めといて」

「あ、はい」


 水利調査とは、川や溜池、消火栓など、火災の時に水がとれる場所を確認し、いつでも使えるよう点検しておくことだ。

 頭の中で地図を広げ、横山は水利を回る順路を組み立てる。


「なあ、魔法で水は出せねえの? それ出せたらホースつなぐ必要もないし、楽だよな」


 順路を決めておけと言った本人が話しかけてくる。横山は軽く首を横に振った。


「それは無理なんです。水とか炎とかはもちろん、物質を、無から有を作り出すことは出来ないんです。その意味では魔法っていうより超能力って言った方がしっくりくるかもですね」


「そうなの? じゃメラとか無理なんだ」


「ヒャドとかバギも無理です。あ、でもホイミはいけますよ」


「マジで!? 回復系いけんの!?」


 先輩職員が興奮した声をあげた。横山は慌てて胸の前で、広げた手を横に振る。


「いや、俺には無理ですけど。回復系の人特(人為的特異事象)はあるんですけど、それ使うのは医療従事者に限られます。マ学技士取ったうえに、普通に医師免許とか理学療法士とかも取らないといけないから、医療業でもあんまり人特治療は浸透しないみたいですね」


「まあ、そうだよなあ。下手に使って人体に悪い影響出たらまずいもんなあ。魔法も意外と制約多いよな」 


 そうしてまた、オレンジジュースをチュウっと音をたてながらストローですすった。

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