↓第41話 ざわつくこころ、はじまりのとき。 (迷子の場合3)

 迷子には目標ができた。

 それは才城リリィの遺作を探すことだ。

 しかし、それは簡単なことではなかった。

 そもそも遺作の在処なんて、誰も知らないからだ。


「…………」


 まったくのノーヒントだった。

 リリィは言伝だけでなく、書き置きすら残していなかった。

 屋敷のどこを探しても、遺作につながる手掛かりは見つからない。

 祖母の書斎で項垂れて、迷子は途方に暮れていた。


「困りました……」


 そんなとき、机の上に一冊の小説を見つけた。

 なんでもない、リリィの代表作の一つだ。

 迷子はなにげなくページを開き、その文章に目を通す。

 今まで何度も読んだ物語だが、やはりいつ見てもおもしろい。


「…………?」


 そこで迷子は、ふと思い立つ。

 頭の中に浮かんだのは、祖母が言っていたあの言葉だ。


『世界は宝石箱みたいなものよ。その箱を開けるたびに喜びや困難にぶち当たる。だけどそのたびにめいちゃんは成長していくわ』


 この小説の主人公も、喜びや困難にぶち当たりながら事件と向き合い成長している。

 その姿を見ているうちに、迷子はなにかのヒントを得た。


「世界の謎と向き合うことで、わたしは成長するんじゃないでしょうか?」


 迷子は小説の主人公と、自分の姿を重ねる。

 そもそもリリィの遺作探しは、地図もなしに財宝を見つけるようなものだ。

 そんな難問を解くには、それなりの推理力が必要なはず。

 迷子はそう考え、自分のことを客観視した。


「――まだまだ実力が足りません」


 自分はまだ、名探偵ではない。

 この主人公のような、卓越した能力もない。

 祖母の謎に立ち向かうには、このままではいけない。

 ならば、やることは一つ。


「迷ってる場合じゃありません――」


 迷子はページを閉じる。

 祖母の遺作を探すため、自分を成長させよう。

 そのために世界の謎に立ち向かう。

 それが、いては遺作を見つけることにつながると考えた。


「フフン、待っていてください!」


 やることは決まった。

 立ち上がる彼女の瞳には、窓から射し込む光がきらめいている。

 このときは『閃光の迷探偵』と呼ばれるなんて、思いもしなかっただろうが。

 まっすぐ書斎を飛び出す彼女の姿に、


 一片の迷いなど、ない――





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

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