↓第55話 いつかまた、どこかで。
星蓮海岸を
ヘリの中で迷子は、ふと思い出したことがあった。
それは星蓮海岸の伝説についてだ。
留置場にいる右左津に聴取したときに、気になっていた伝説の全編を聞いていたのである。
ちなみに前半の部分に関しては、星蓮荘で澪から聞いていたとおり。
星蓮海岸を汚す人々に激怒した女神が、美しい歌声の呪いによって人々を不幸に陥れるというものだった。
ここまで聞く限りでは、ちょっとした怪談のようでもある。
しかしここからの続き――後半では、迷子の予想していなかった展開が待っていた。
呪いのかかった人々に天罰が下ったあと、星蓮海岸に一人の男性がやってくる。
彼は人生に絶望していて、砂浜の上で力尽きようとした。
しかし死の直前、女神の美しい歌声を偶然耳にする。
そしてこの海岸を去る前に、旅の途中で手に入れた『朱色の石』を、感謝の印として女神に渡したという。
夕日を受けて去る男の背中に、女神は歌を歌う。
その声は不幸を呼ぶ呪いではなく、旅立ちを祝う福音となり、そのあとも男の人生に幸せをもたらしたのだとか。
――これが、伝説の全容だった。
「澪ちゃんも呪われていたんでしょうか?」
窓に映った自分の顔を見つめ、迷子はそんなことを呟く。
復讐を実行した澪の姿は、見ようによっては人々を呪いに陥れた女神の姿と重なっていた。
皮肉にも今回の事件が伝説をなぞっているようにも感じて、迷子は感慨深い思いに浸る。
「ひょっとして、呪いの力が今回の事件を引き起こしたとしたら……」
というようなオチが祖母の小説にもあったような気がして、迷子は一人身震いした。
「なにブルってんだよ?」
「メイちゃん酔ったのぉ? うふふ、外の景色でも眺めれば落ち着くわぁ」
うららとゆららに言われ、迷子は我にかえる。
瞳に射し込む夕日に目を細めると、海面に反射した光が無数の色に輝いて、水平線一帯が宝石を散りばめたようだった。
「――なんてきれいなんでしょう」
女神もこの景色を観ていたのだろうか?
そんなことを思いながら、迷子は遠ざかる海岸に手を振る。
「さようなら! 女神さん!」
――――――――――――
●お読みいただきありがとうございます。
次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。
それではまた(^^)
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