↓第53話 だれが、はんにん?
「そんな……お二人があの人を……」
澪は後ずさりながら、肩を震わせる。
その様子を見たうららは、
「ん? みおっち、なんか勘違いしてないか?」
「メイちゃん、ちゃんと説明したのぉ?」
訝しい表情を浮かべる二人に、迷子は気まずそうに補足した。
「すみませんみおちゃん。先に言っておくと、二人は犯人ではありません」
「……え?」
「犯人は、あそこにいます」
迷子が言うと、うららは背負っていたクーラーボックスの中からあるものを取り出す。
「それは……石?」
澪は不思議そうに、うららが取り出した『オレンジ色の石』を見つめた。
迷子は説明を続ける。
「そうです。星蓮荘の食堂から消えた、あの『オレンジ色の石』です。岩礁の下に落ちていたんですが、うららんに探してもらっていたんですよ」
するとうららは、ため息をつきながら語りはじめた。
「苦労したぜ。バイトをする代わりに水産科のヤツらに協力してもらったんだ。あいつらこのあたりの海には詳しいし、そしたらビンゴ! 岩礁の下に引っ掛かっていた石を見つけたってわけ」
「みおちゃんと海岸で掃除していたときに、船からうららんが大漁旗を振っていたのを覚えていますか? 実はあれ、ほんとうは石が見つかったっていう合図だったんです」
水産科の力を借りたうららは、潮の流れや岩礁の形から推測して、落下した石をなんとか見つけることに成功した。
「でも待って! 石を探してたのはわかった。でも、この石があの人を殺したっていうのはどういうこと? まさか石が自分からぶつかっていったわけじゃないよね?」
訝しむ澪に、
「違いますみおちゃん。この石が『X』さんを殺したのではなく、『この石のために『X』さんは死んだ』のです」
迷子はそう答えた。
「??」
「順を追って説明しましょう。まずはじめに生徒会の事件と、『X』さんの死亡はまったく別のものだということを理解しておかないといけません。偶然ですが、みおちゃんが計画を実行しようとした矢先に、『X』さんは自分の不注意で死んだのです」
「それってつまり――」
「はい、事故死です。致命傷となった後頭部の裂傷は、岩礁で足を滑らせて打ちつけた痕。そして身体にある無数の切り傷は、岩礁で石を探すうちにできたものです」
岩場を登ったり転んだりすれば、小さな傷が増えるだろう。
迷子の言葉に、しばらく澪は視線をさまよわせた。
「そんなまさか……あの人は誰かに殺されたんじゃなくて?」
「そうだよみおっち。水産科のヤツらも、あの岩場は滑りやすいって言ってたぜ」
「これまでの状況を整理すれば、『X』さんは足を滑らせたというのが妥当ねぇ」
うららとゆららが口を挟む。
「でも……あの人はなんで石を? なんの価値もない石ころのために、そのためにあの人は死んだっていうの?」
そんなことを言う澪に、
「いいえみおちゃん」
迷子ははっきりと言う。
「無価値ではありません」
「え……?」
「この石は『
はじめて聞く単語に、澪は瞬きを繰り返す。
「りゅ、りゅうぜんこう?」
「はい。1キロ数百万の値がつくこともありますから、この重さだと数千万は下らないでしょう。『とある理由』から『X』さんは、この石の価値を知っていたんです。そしてみおちゃんのもとへ持っていくために、毎日岩礁で探していたんですよ」
「わたしのために? 擦り傷をつくってまで? どうして……というか、そもそもなんで石が岩礁なんかに?」
「その答えは右左津さんが知っていました」
「先日留置場で問い詰めたところ、すべてを白状しました。宝探しが趣味である彼もまた、この石の価値を知っていたんです。食堂でこれを見つけたときには、チャンスと思ったようですね。まぁ、売れば大儲けですから。右左津さんはみおちゃんがいない隙に石を盗み、逃げ出したんです。でも、それを見ていたのが『X』さんでした。すぐさま右左津さんを追いかけて辿り着いたのが星蓮岬。そこで揉み合いになり、石を崖の下に落としたんです」
「それで岩礁の中に……」
「はい。右左津さんは『X』さんにこう言ったそうです。「石の分け前をやるから見逃してくれ!」と。でも『X』さんは「お前が触れていいものじゃない!」と言って、右左津さんを殴ったそうです。しばらく右左津さんの顔にアザができていたのは、そのためです。そして石を持ち主に返すと言って、『X』さんはずっと岩礁に入り浸っていたそうです」
その結果、足を滑らせた。
なんとも不運な結末だ。
「そんな……わたしのためになんでそこまで?」
澪は納得していないようだ。
自分がやったことといえば、身元不明の男性に食事をあげただけだ。
何気ない世間話をしたり、どちらかといえば自分が悩みを聞いてもらっていたくらいだ。
彼が石を探して、澪に返そうとする理由がわからない。
「教えて迷子ちゃん。彼は何者なの? それがすべての答えなんでしょう!?」
澪は問う。
迷子は静かに頷き、口を開いた。
「会ったときから妙な既視感はあったんです。でも、ようやくわかりました。それもそのはず。わたしだけでなく、『X』さんはみおちゃんやいろんな人が知っている人物だったのですから」
「わたしの……知ってる?」
「はい」
一呼吸おいて迷子は、
「『X』さんの正体は――」
澪の目を見て、こう告げた。
「『
――――――――――――
●お読みいただきありがとうございます。
次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。
それではまた(^^)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます