↓第51話 うまれた、さつい。

 仁紫室ジュンヤが逮捕された次の日の夕暮れ。

 今日は迷子たちが帰る日だ。

 オレンジ色に染まる水平線を見つめ、星蓮岬に立つ一人の少女がいる。


「ラーーー。ラーーー」


 澪だ。

 美しい歌声を響かせて、発声練習をしている。


「さすがですみおちゃん。素敵な声です」


 そこへ迷子が現れる。

 おそらくお別れの挨拶に来たのだろう。


「あ、迷子ちゃん。そろそろ出発の時間?」


「そうですね。もうじき才城家のヘリが迎えに来ます。あっという間だったけど、こちらでの夏休みも終わりです。今までありがとうございました」


 お辞儀をする迷子に、


「いいえ。わたしのほうこそありがとう。星蓮荘最後のお客さんが、迷子ちゃんたちでよかったよ」


 澪はメガネの位置を直しながら、にっこりと微笑む。


「迷子ちゃんたちのおかげで、生徒会の悪事が暴かれたわ。これで星蓮学園も変わると思うし、取り調べが進めば『X』さんのことだってわかると思う。ぜんぶ迷子ちゃんたちのおかげ。事件を解決するなんて、さすが閃光の迷探偵だよ!」


 お礼を言う澪に、


「いいえ」


 迷子は静かに首を横に振る。


「それは違います」


 そして黄金に輝く水平線を眺めた。


「? 違うって?」


「まだ事件は解決していないということです」


 重い沈黙が満たす。

 事件は解決していない?

 その言葉が、澪には深く突き刺さった。


「そ、そんな……容疑者は全員逮捕されたんだよ? 取り調べが順調なら、いつか有力な証言が得られるはず。あの人――『X』さんを殺した証拠だって……!」


「その通りです。有力な証言と証拠が見つかれば、この事件は解決でしょう。でも、そうなることはありません」


「そうなることがないって……?」


「あそこに『X』さんを殺した犯人がいないからです」


「!!」


 澪は驚きに目を剥く。

 視線をさまよわせたのちに、改めて迷子に問うた。


「ど、どういうことなの!? あそこに犯人がいないとしたら、じゃあ、誰が『X』さんを!? 事件の真相はどこにあるの!?」


 澪は声を荒げる。

 落ち着いた迷子の様子を見る限り、おそらく彼女は真相に辿り着いているはずだ。

 ならば早く聞かせてほしい。

 事件の真相を。

『X』を殺した犯人を――。


「単刀直入に言います」


 迷子は顔を上げる。


「この事件の真相について、『X』さんは誰で、なんであそこで死んでいたのかを」


 瞳の奥に宿る閃光が、今、一つの真実を暴く。


「みおちゃん。黒幕はあなただったんですね」





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

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