↓第49話 しとう。
三日月が昇る静かな夜、作戦は決行された。
迷子、うらら、ゆららの三人はテソロのフロントに向かう。
一階に入るなり、待ち構えていたのは屈強なSPたちだった。
迷子は携帯端末をLIVE配信に切り替え、レンズを露出した状態で胸ポケットに仕舞う。
「すごい人数ですねぇ……」
そして辺りを見渡しながら呟く。
ここは一歩も通さないと言わんばかりの圧を放ち、SPたちは手や首の関節をボキボキと鳴らしている。
どうやら素直に通してくれるわけではないらしい。
手厚い歓迎は覚悟の上で、迷子たちもここに乗り込んだ。
ならばこちらも、それなりの『
「へへっ、いっくぜーッ!」
八重歯を光らせたうららは、勢いよく階段のほうへと走り出す。
その先で待ち構えるSPたちが、剥き出しの敵意をもって押し寄せてきた。
「うおりゃーっ!」
しかしうららには関係ない。
軽々と跳躍して階段の手すりを駆けあがると、最後尾のSPの背中に強烈な回し蹴りを喰らわせる。
するとドミノ倒しの要領で、黒いスーツの男たちはバタバタと倒れていった。
「おーい、先いくぜー!」
折り重なる男たちを見下ろし、嬉しそうにうららは先へと進んでいく。
「ナイスです! わたしたちも行きましょう!」
「了解ねぇ」
SPの背中を踏みつけて、迷子たちも階段を上る。
目的は仁紫室に会うこと。
おそらく最上階にいると思われるが、エレベーターを使うと閉じ込められる可能性があるので、三人は階段を使って上を目指した――
☆ ☆ ☆
次の階に着くと、長い廊下の向こうに大勢の黒服の姿が見えた。
スーツの胸元から銃を取り出し、こちら側に構えている。
「おいおい、ここは日本じゃなかったのか?」
嘆息するうららにSPは、
「安心しろ。中身は特殊なゴム弾だ」
そう答えて銃の安全装置を解除すると、
「ただし、気絶するほど痛いがな!」
いきなり容赦なく、迷子たちのほうに弾を撃ちだしてきた。
「わわわわ! ちょっと危ないですって!」
「はいはーい。メイちゃんはこっちねぇ」
ぬいぐるみを扱うように、迷子の両脇を掴んでひょいと持ち上げるゆらら。
そのまま観葉植物の陰に彼女を隠すと、うららと目配せして一斉に走り出した。
「――なッ!?」
その光景を見たSPたちは目を見開く。
広い廊下の左右に分かれた姉妹は、そのまま勢いを殺さずに壁を走り出したのだ。
うららは右の壁を、ゆららは左の壁を駆け抜ける。
「う、撃てぇッ!」
男たちは左右に分かれて一斉射撃した。
はるか頭上を駆ける残像に、しかし銃弾は当たらない。
それどころか構えた銃の先端になにかが直撃して、男たちの手首は弾かれた。
「ぐわッッ……!?」
うららはエプロンの裏に仕込んだ自動小銃――
ちなみに作戦決行前、うららはゴム弾が出るように改造していた。
一方のゆららは、太ももに仕込んだクナイを走りながら
弾丸とクナイはSPが構えた銃口の先端に命中して、戦力を無力化させた。
廊下の向こうに渡り切った二人は、間髪入れずに振り返り、黒服たちのほうへと走り出す。
男たちは手首を押さえながら、近接戦闘の体勢に移行した。
「キサマら……ッ!」
しかし正拳を突き出す前に、男たちの視界はグルンと天を仰ぎ暗転した。
姉妹たちの凶器じみた拳が、一瞬にして男たちの意識を刈り取ったからだ。
疾風のごときスピードで、次々と正確な一撃をお見舞いしていく。
「ははっ、まだまだいっくぜーッ!!」
「姉さん、暴れすぎよぉ……」
次々と倒れていくSPを眺め、呆れた様子でため息をつくゆらら。
――そのとき。
迷子が隠れていた場所から声がした。
「そこまでだッ!」
観葉植物の陰から、残っていたSPが迷子の手首を掴んで引きずり出す。
「主人を守りたければ、そこを動かないことだ」
銃口は迷子のこめかみを狙っていた。
「…………」
迷子はじっとして、下を向いている。
「さぁ、武器を捨てて投降しろ!」
「クソッ、てめぇ……!」
SPの声に、うららは歯噛みしながら足を止める。
ゆららも様子を窺うように、じっと迷子のほうを見つめた。
「よし、膝を突け! 応援が来るまでそのままおとなしく――」
男がそう言った瞬間。
下を向いていた迷子が顔を上げた。
そしてプッと口から吐き出されたなにかが、男のサングラスを直撃する。
「うっッ!?」
それは葉っぱだった。
手首を掴まれたときに、観葉植物の葉っぱを咄嗟に口でもぎ取っていた。
それを口の中で噛んで丸め、チャンスを狙って発射した。
「くっ、このぉッ!!」
額に青筋を立てた男は、銃の引き金を引こうとする。
――が、ゆららが一瞬のスキをついてクナイを投擲した。
それがレーザービームのように銃口に命中し、弾の発射を阻止する。
「っ!!?」
神業をまえに言葉を詰まらせる男。
そのときすでに彼の頭上に舞う、うららの姿があった。
アクロバティックに身体をひねり、男の
「ぐほぉッッ!!」
吹っ飛んだ男の身体は、二、三度廊下の上をバウンドした。
そのまま向こうの壁に激突して、顔を伏せたまま沈黙する。
「ふぅ、危なかったぜ」
「うげぇ~、それよりこの葉っぱまじいです……」
「もう、なんでも口にしたらダメよぉメイちゃん」
舌を出したまま苦そうに顔をしかめる迷子を、「よしよし」と撫でるゆらら。
その間にも無数の足音が、こちらへと向かってくる。
「おい、のんびりしているヒマはないぜ」
「とりあえず離脱ねぇ」
「うぅぅ、どこかに水道ありませんかぁ……」
そんなことを言いながら、三人は長い廊下を駆け抜ける。
行く手を阻むSPを蹴散らしながら、さらに上の階へとのぼっていった――
――――――――――――
●お読みいただきありがとうございます。
次回もお時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。
それではまた(^^)
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